『short novel』
□青
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悲しみ、哀しみ、カナシミ、かなしみ。
冬になると思い出す、胸に刻まれた冷えきった記憶。
雪が舞い散る灰色の空を見上げると、いやがおうでも膨れ上がるんだ、鮮明に、くっきりと。
この左眼の傷痕が印す紅の追憶の日々。
嗚呼、涙が零れてきた。
情けないぞ、男だろ?
涙は見せるなよ、涙なんか……、
涙、なんか……。
「大丈夫だよ。」
微笑みと、澄んだ言葉と、あなたの暖かい掌。
振り返った先にいたのは、雪光りに照らされた僕の女神。
何度あなたの名前を呼んだだろう、何度あなたに助けられただろう、
何度あなたに抱きしめてもらっただろう。
「私がいるよ?私が、アレンくんの傍にいる。だから、」
(泣かないで?)
つらい、つらいよ。
苦しいし、悲しいし、何より自分を壊したくなる。
でも、あなたが僕を抱きしめてくれる。
それだけで僕の涙は雪空に消えてゆく。
いつかあなたも、苦しみや痛みに襲われたら、いつでも僕に言ってほしい。
同じくらいに抱きしめて、同じくらいの勇気をあなたにあげるから。
僕は忘れない、忘れられない。
あなたがくれた優しさを、
あなたがくれた生きる意味を、
忘れない。
ずっと、忘れない。
fin