『short novel』
□歩行者優先
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よく道路に設置されている標識。
『歩行者優先』。
それは、そこに当て嵌まる者が通行を先することができる印。
ちょっと意味が違うけど、僕もあることを優先されている。
今日も昨日も一昨日もその前の日も、僕が一番乗り。
「おはよう、アレンくん。」
彼女を笑顔をその日一番に見る権利。
「あ…、おはよ…///」
彼女に一番に挨拶をする権利。
全部僕が優先的。
彼女の隣の席の僕が、他の誰よりも。
「今日は寒いねっ。」
「そ、そうだね…////僕なんかマフラー持ってきたよ。」
「それはまだ早いよーっ!アレンくんって寒がり?」
「…うん、かなり…////」
「ふふっ、女の子みたいだねっ。」
元は遥か遠い、憧れの存在だと思っていた。
でも彼女の隣の席になったその日から、ほんの少し勇気を持ってその概念をぶっ壊した。
ゆっくり、ゆっくりだけど、彼女との距離は縮まってきたと思う。
たわいのない会話ひとつで胸が弾み、笑顔を交わすだけでキモチが高なり、
彼女への恋心が大きく大きくなっていった。
「明後日テストだねぇ…、アレンくん勉強大丈夫?」
「僕は大丈夫だけど…。」
「私物理危ないかもっ、どうしよう…。」
「…リーさんなら大丈夫だよ。」
「…リナリーで、いいよ…?」
「…へ?」
「リナリーって…呼んで?」
気のせいかな。
彼女の頬が赤く染まった気がしたんだ。
それは思い違いか、それとも……。
「あ、あのっ!リナリー!」
初めて呼んだ彼女の名前。
なんでこんな展開になったのかわからないけど、あの時、僕の恋心が形になった瞬間だと思う。
「…テスト終わったら、…どこか、遊びに行きませんか…?」
「……うんっ、私も、アレンくんと遊びに行きたいな…。」
よく道路に設置されている標識。
『歩行者優先』。
それは、そこに当て嵌まる者が通行を先することができる印。
僕の場合は、想いを彼女に伝えることができる権利。
それは誰にも邪魔されない、一本道。
僕の恋心の中では、自動車は通行止め。
恋をする者だけの、
『歩行者優先』。
(じゃあまずはアドレス交換しよっ?)
(…喜んでっ!)
fin