『short novel』

□to you
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ある平日の日暮れ時。



家庭を持つ者なら誰でもわかる多忙な時間。


家の中では軽快なリズムの包丁、外では4時を告げる鐘が響いている。


最近お肉料理をあんまり作ってなかったから明日の夕食はハンバーグにしよう。


そう考えながら手際良く今晩の夕食の下準備をしていると、







「おかあさんっ。」





柔らかくて弾むような声がする。


それが聞こえたほうに振り向くと、声の発信源は自分よりも小さなものだとわかる。


寒さにも負けない、元気な元気な我が子。



「なぁに?」



けど、すぐに扉の影に隠れてしまう声の主。



(……いたずらっこ。)



可笑しくってつい笑顔になってしまう。


誰に似たんだか、滅多にこんなことはしないんだけど今日はその小さな体を目一杯ばたつかせている。


少しやかましいくらいに。



「おかあさんっ。」



「なぁに?」



「…なんでもないっ!」



なんでかわからないが、照れ隠しの笑顔を残してパッとリビングへ戻ってしまった。



(…なんだろ、今日は落ち着かないね…。)



ならばこちらも、大人として便乗してあげようではありませんか。



「こーらっ、人のこと呼んだらちゃんとお話しなさいっ!」


「えへへ〜っ、やーだっ!」


「あっ、そういうことする子はくすぐりの刑だぞ!」


「やーだやーだよっ!!」



バタバタとはしゃぎながらリビングを走りまくる私たち親子。


いつまでも子供心を持つということが『家族』として大切なんだって、この子と接しているとわかる気がする。



「……あっ!火つけっぱなしだった!!」



……前言撤回。

少しは大人にならなきゃね…。





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