*銀魂*long

□完全犯罪のいらないスマートな方法
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これといって予定のないド平日の、普段通りの朝。
どうせ今日も万事屋に仕事は無いだろう。今月もまた給料ナシか…。そんな不吉な未来を予想しながら、また別のところで、今日の晩御飯は何にしよう、なんて考えている僕は、多分呑気なんだと思う。

ちらりと傍の電器屋を覗き、やば、と呟き小走りになる。あと5分で、スーパーの10時からのタイムセールスが始まってしまう。


そんな感じで、こうしてまた濃くも薄くもない、それなりに騒がしい1日が始まるのだと思っていた。

…のに。




後ろから車の音がしたので、何気なく振り返ってみれば、見慣れたパトカー。
奉行所の、乗用車に提灯つけただけーみたいな古臭いやつじゃなくて、白と黒の、がっしりしたそれ。
つまり、武装警察真選組のものだ。

条件反射のようについ身構えるが、今ここには、彼らを毛嫌いする困った社長も同僚も姉もいないので、それもすぐにとけた。

乗っている人だって彼らとは限らないわけだし。そう思って視線をパトカーから進行方向へ帰した、その瞬間。




横を通ったパトカーの後部座席が急に開いて、平隊士であろう背の高い(なぜか額に絆創膏が貼ってある)男が飛び出した。
同時に、車内から出てきた別の黒い腕が、僕の襟首をひっ掴んだ。


「うっ、わ!?」


何が起こってるのか全く理解できないまま思い切り引っ張られ、出てきた男にも勢いよく押し込まれ、かたいクッション(あとに分かる後部座席)に顔面をぶつけた。

くらくらする頭で、パトカー内に引き込まれたのだと分かったのと、ドアが閉まり、僕を押した隊士を残したまま車が発進したのが同時だった。


僕の襟首を放した腕は、(昔の漫画チックな)便底ぐるぐるメガネの上で敬礼をして、大声で叫ぶ。
あれこの人、見たことある顔だ。
確か…、


「任務完了でありますッ隊長!!」

「ごくろー、神山」


返事をした運転手にの声に、聞き覚えがあった。
運転中で前を向いているので顔は見えないが、いちいち確認する必要はなかった。

だって、真選組で隊長と呼ばれる、砂色の髪の人なんて、僕は一人しか知らなかったから。


彼は言う。
独特のやる気のないイントネーションを間延びさせ、恐らく、にやり笑って。



「新八クン拉致作戦、成功ー」








混乱する僕に説明をくれたのは、隣に座る神山さんだった。
金目当てでも、僕と引き換えに姉上に近藤さんと結婚するよう脅すわけでもないらしい。

じゃあ何のために、と聞こうとしたが、駅に着いたところで話は途絶えた。

わかったことは、『とりあえず大人しくついてこい』で……この人たち、本当に警察なんだろうか。


「それではッお気を付けくださいっス!」

「おー、さんきゅー」

「た!隊長がお礼を…自分にお礼をッ!!感激ッス!もう自分、どこでも行けるッス!隊長のためなら、たとえ火の中水の中あの娘のスカートのな」

「そのまま地獄の中にでも墜ちてってくれィ」

「イエッサー!メモしときます!!」

「や、メモはいーからさっさと消えてくんね?あ、でも後は頼んだぜぃ」


無茶苦茶なことを言っているのに、神山さんはイエッサァァア!!と叫んで、ビシッと音が鳴るほど敬礼をする。
対照的に沖田さんはさっさと背を向けて歩き出し、手をひらひらとさせただけだった。行くぜぃと声をかけられた僕は、少しだけ迷ったが、神山さんに軽く礼をし、沖田さんの後を追いかけた。


「あの、神山さんは行かないんですか?」

「パトカー持って帰ってもらわねーと。駐輪代もったいねぇだろィ」

「はぁ、まぁ…」


ふと、前を歩く彼が私服の袴であることに気がつく。神山さんともう一人の隊士は隊服だったのに。
非番だったのだろうか。そのくせに仕事中の部下使ったのか?いや、その前にこの人も仕事だった可能性もある。この人ならやりかねない。……よく知らないけど。


そんなことを考えている間にも、沖田さんは振り返ることなく駅の中をずんずん進んでいく。早い。あわてて小走りになる。

「あの、沖田さん!」

「大丈夫、心配しなくても新幹線代くらい出してやりまさァ」

「え、新幹線乗るんですか!?」


お金を払う沖田さんの背中に、いったいどこまで行くんですか!?と聞くと、にやり、笑いながら言った。

彼の頭の向こうに見えた時計では、もうとっくにタイムセールスは終わっていた。



「武州でさァ」



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