おお振り
□景色
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皆と比べると一回り小さいから打撃に威力が出ないって事は理解しているし
だからって大きくなろうってもいくら育ち盛りでも限界がある事も知っている。
モモカンも「これからだからね」と言ってくれた。
もちろん、小さいなりにメリットはある。
でも、やっぱり背が高いって憧れるんだよ。
例えばさ、花井の目には一体どんな景色が映っているのかって事とかね。
小さい頃、肩車してもらった時に見た大人の見る景色。
同じ世界を見ているはずなのに全然違う世界に見えたのを覚えている。
花井の背中に飛び付いた時、やっぱり少し違う世界が見えた気がした。
「…じま?」
「……」
「田島!?」
「っお!何だよ花井」
「何ボーってしてんだ?」
今日も17cm上から俺の事を見下ろしている。
「あー、あのな。花井って背でけーじゃん?」
「唐突だな。ま、そうだな」
「何が見えんの?」
「はっ!?」
「だーかーら、何が見えてんのって、眺めはどうかって話だよ」
「あぁ…」とか言って黙った花井。口元に指を当てて考えている。
「そうだなぁ、あまり意識した事無いから分かんねぇな。寧ろ、俺は田島にはどんな風にモノが見えているのかって思うんだけど」
そう言ってから「まぁ、つむじがよく見えるかな」と笑いながら付け足して、花井はその場を去った。
そっか、花井は俺が見ている景色が見えてないんだ。
そうすると、三橋とか泉とかが見ている景色も皆と違くって…
そっか、そっか。
俺はうんうんと頷いて歩きだした。
俺が見ている世界は俺にしか無いモノなんだって何となくだけど分かったら、人より小さいのも良いかななんて思えてきた。
花井があんなにでっかく見えるのも部員で俺だけで、俺が凄くちっこく見えるのは花井だけ。
俺たちって何だか特別なんだなって思うと少し嬉しくなってきた。
【Finalizzare】