短・中編
□潮騒
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いつもと変わらない、退屈な日々…ガイが貝殻を一つ、持って来た。
-潮騒-
「何だよ、こんな貝殻一つ持って来て…クソつまんねぇ〜…」
「はは、まぁそう言うなって…」
そう苦笑いして、手に持った巻貝の貝殻を俺の耳に押し当てた。
「っなに…」
「し〜っ…静かに。耳澄ましてみろって」
「……?」
とりあえず、言われた通り耳を澄ましてみる。
ザァー…
「っうわ…」
耳に届いた音があまりにリアルで、思わず身を引く。
今の音は…何…?
「聞こえたか?」
ガイは微笑んで、俺の横に腰を下ろす。
「……何だ今の…」
ガイは、俺の反応にいかにも上機嫌というような顔を浮かべている。
意図が見えない。何か…むかつく。
「海の音」
不機嫌を絵にかいたような表情をしていただろう俺に、一言そう言った。
「海…?」
知識でしか知らない、膨大な水の集まり。
「20歳まで海を知ることの出来ないお前への、俺からの同情…ってね」
おどけたように言う姿が、どこか少し悲しげで。
「なんてな、本当はただお前に聞かせたかっただけ」
やるよ、と貝殻を俺に投げてくる。
ガイがたまに見せるあの寂し気な表情。俺は、その理由を知らない。
「ま、本当の海はそんなちっぽけなモンじゃないがな」
「ふぅん…」
いつか、ガイの記憶の中の海を見てみたい。
「…20歳になったら…連れていってやるよ…」
その一言にまた、あの顔が交じっていて。
「ガイ…」
手招きして呼び寄せる。
「…?」
近寄ってきたところを、きつく抱き締める。
「…そんな顔するな」
「…え?」
「そんな暗い顔されたら、本当に連れていってくれるか、不安になるだろ…」
本当は、そんな表情をして欲しくないだけ。
ガイ本人はいつものように軽く笑い、頭を撫でてくる。
「子供扱いするなよ…」
「…ありがとうな」
俺の本心に気付いたのか、そう言って、心から笑ってくれた。
それだけで、この退屈な生活の中でも生きていける。
「子供に気ィ使わせちまったなぁ〜…」
………また子供扱いしやがった。
「ガイ」
「…っ?」
胸ぐらを強引に引き寄せ、軽く触れるだけのキスをしてやった。
「…?!」
驚きのあまり、目を白黒させている姿が妙に愛しく感じる。
「ガイ、今に見てろよ…?」
喜びも、悲しみも…いつかお前の全てを手に入れてやる。
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