小説

□捻れる 想い
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…まじで?

意識してる。
森田が俺を見ているからと聞いて、勝手に気まずくなってる。
森田からしてみれば全く迷惑な話し。

「え、や…え?」
「あいつ教え方もうまいよ」
「う〜、まあそれは分かるんすけ、ど〜…」
「なに、お前森田嫌いなんか」
「あ〜、嫌い?や、嫌いっつか、うん、苦手?かな、うん」
「ふ〜ん、まぁあいつ暗いしなぁ」
「うん、暗いっしょ?」
「じゃあこれを機に仲良くなったれよ」
「え!」
「なんだお前冷たいな〜森田の青春時代を明るくさしたれって!お前バカでうるさいから大丈夫だよ」
「…褒めてねぇなオラ」
「ハハハ〜」

暢気な担任の言葉に今度溜め息をついたのは俺の方だった。

いやまぁ森田が俺を好きってのはないだろ。そうそうホモが転がってるもんじゃねぇだろうし。
…あ、でもC組の橋本ホモって聞いた事ある。

「ま、再テストまでだって。俺森田しか思い浮かばんし」
「…う、」
「はい説教終わり〜」
「…このやろ」

担任はシッシッと手で俺を軽く払うと椅子をくるっと回し机に向き直った。

「……」

ふーっとまた溜め息を吐き、ゆっくりとした足取りで職員室を後にした。


三階にある教室に向かう。

森田まだいたりして。…いませんように。

「森田ー」

ガラッとドアをスライドさせながら声をかける。

「…篠原」

……いんのかよ。

森田は自席でいつも読んでいるであろう本を開いていた。
もう学校終わったのに。もしかしていっつも残ってんのかな。

教室にいたのは森田一人だった。
始めは驚いた顔をしていた森田だが、暫くすると俺を見ながら本を閉じた。

「…なに?」
「うん、あの〜…」

気まずい。
ごめんね森田、勝手に気まずいとか思って。お前のせいじゃないよ。上野と田口のせいだから。

「勉強、教えてほしいんだ〜…」
「勉強?」
「うん、数学と英語欠点でさ」
「…こないだのテスト、あれ結構大事なやつだぞ」
「そこなんだよ、でも取っちゃったからさ〜」
「へぇ…」
「お願い!再テストまででいいからさ、頼むよ森田!」

森田は俺をちらっと見ると、鞄を開いた。

「…森田?」

その鞄から教科書を出す。
数学の教科書だ。

「再テストまでだから」
「う、え、あ、ありがと!」

森田はどうやら教えてくれるようだ。
俺はホッとする。
森田って怖い。糸みたいな目で、あんまり口開かないから。


そんなこんなで、俺と森田は再テストまでの放課後を二人過ごす事になったのだった。





「まじでか」
「まじでよ」

あれから三日。
学校の昼休みにお馴染みの二人と弁当にがっついていた。

「放課後遊んでくんないと思ってたら森田と勉強って…」
「お前、大丈夫?」

上野と田口は俺を凝視する。
いくら冗談だからと言っても、ホモ疑惑があると言った二人は信じられんという顔をしていた。

「おまえ、襲われてもしんないよ?」
「もしかしてもう処女なくしたとか?」
「…いやいやいやいや」

弁当を食べる手を止めている二人に反して、俺はガツガツと弁当を持ち上げご飯を口にかき入れていた。

「言っとくけどな、あいつすげぇいい奴だよ」
「え、」
「いい奴?」
「うん」

弁当を食い終わると、お茶を喉に流し入れた。
ゲプと口から空気を吐きながら二人を見た。

あいつは、思っていた以上に話しやすくて優しいいい奴だった。

分からないとこを俺より先に気がつき、実に分かりやすく教えてくれる。
俺がどんなに分からなくても薄く口角を上げて優しい笑みを向けて。
周りが思っているような、冷たい奴ではけしてない。

俺は森田に対して以前の警戒心は全く感じていなかった。
むしろ一緒にいるのが楽しいとそう思える程度には森田を好いていた。

「いい奴だよあいつ、本当に」

今だ目を見開いている二人に笑って、俺はそう言った。

今日も放課後、楽しみだなぁ。





「だからさ、何でこんなスペルも書けないの篠原」
「俺記憶力0なんだよね〜」
「覚える気ないな…」
「あーるーよ〜」
「……」

英語は数学より苦手だと思う。だってまず単語が書けない。

ハァ…と呆れた顔の森田。

「ごめんね森田〜」

でもそんな顔をさせるのが楽しい。
きっとこの顔を見れるのは俺だけだ。だってこいつには誰もいない。
暗いと思っていた奴の意外な表情って特別に感じる。

多分仲の良い奴は、俺しかいない。

「あ、そういやさ」

俺は思いついた様に向かいに座る森田を見た。
何だ、と教科書に向けていた体を上げる森田。
この億劫な感じも、いいな。

「田口と上野って分かる?」
「あ…うん篠原と仲いい…」
「そうそ〜あの二人が言ってたんだけどさ〜」

ニコニコと笑いながら何も考えずに言った。

「森田が俺の事好きみたいに言ってたの、森田が俺を見てるとか言って」
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