小説
□孤独な執着。
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「そっかぁ、何だ俺の勘違いだったのかぁ」
進藤は、笑った。
「……」
良かった、怒ってない。気まずくなってない。…嫌われてない。
しかしまさか進藤が自分に、そうゆう感情を抱いていると思わなかった。
「だけどぉ」
進藤は女子からも男子からも人気があって、とてもよく可愛がられているから。
「俺、やめない」
だから本当は嬉し――
「グァ!」
思考を巡らしていたとこに、進藤の手があった。
頭を掴み床に叩きつけられる。
「俺のにならない先生なんか…先生じゃないよぉ…?」
「イ、…ッ…しんど…」
俯せに体を倒され、上からのしかかる様にして座る。
「ふふ、綺麗な先生を俺の精液で汚したいなぁ」
「……ッ…、!!」
「絶対可愛くなるよ、俺一生手放せない」
髪の毛を掴み、無理矢理上に引っ張られる。
喉が引き攣った。
「ああ興奮する、先生見てるだけでイッちゃいそう…」
「や゛、め゛…ッ…」
「うんうん、可愛いよ先生」
体が震えた。
怖かった。
「先生、俺ずぅっと好きだったんです。なのに何で?」
体が、動かない。
「何で俺が好きじゃないの?」
このままだと、
「何で先生を俺のにしちゃダメなの?」
体が蝕まれていく様な。
次の瞬間、俺は進藤を突き飛ばしていた。
そして教室から飛び出す。
「…ハッ、…ハッ」
長い廊下を走る。
いつも歩いている筈の廊下は、果てしなく続いているように感じた。
「…ッ…」
もう戸締まりは日直の先生に任せよう。
今はもう、逃げないと――
階段を駆け降り、真っ暗な校舎に灯る明かりを目指す。
職員室まで来ると荷物を取った。
仕事が残っていたが、もう今日はそれどころではなくなった。
もう他の教職員は帰っている様で、どこかに日直の先生が一人残っているだけだろう。
宮谷は急いで職員室の扉を開ける。
ガララッ!と大きく音を立てた。
一瞬シン、と静まり返る。
「………」
宮谷は立ち止まり、ふと我にかえった。
…なにを、焦っているんだ俺は。
「……」
生徒にたいする自分の行動を思い返した。
でも。
…好きなんて、そんなの、怖い。
好きや愛しているなどという言葉は曖昧で、それを自分に当てられた時が怖い。
そう思い立ち止まっていた時。
ペタ、ペタ
学校でよく聞く、上履きのあの独特の音が、小さく鳴り響いた。
しん、どう…ッ
ペタ、ペタ
足音は、確実にこちらに向いている様だった。
「…ッ…!」
俺は再び怖くなり、走った。
そして駐車場に一番近い扉に近付く。
ペタ、ペタ、
怖い、怖い…!
足音が、先程から少しもなりやまない。
むしろ、俺の後ろについている様な――
ようやく扉に近付き、ガチャッ!と扉を捻る。
早く車に乗り込まなければ…、
「ッ!?」
開かない。
扉が閉まっている。
ペタ、ペタ、
「!!」
近い、どうしよう…!
俺はまた走った。
ここからだと、旧校舎まで行かなければ出口はない。
ペタ、ペタ、ペタ、
「…ッ!」
先程より、足音が近い。
俺はなりふりかまわず走った。
「ハッ、…ッ…ハッ…」
怖い、どうしよう、
ペタ、ペタ、
いくら走っても、足音は一向に消えない。
ペタ、ペタ、ペタ、
「…ッ…!」
すると一ツだけ開いている教室を見つけた。
「…ッ」
俺は思わずそこに入った。
あまり使われていない、物置部屋だ。
ペタ、ペタ、ペタ、
「……ッ…」
俺は小さくなり、身を潜めた。
ペタ、ペタ、ペタ、ペタ、
足音は段々と近く、
ペタ、ペタ、ペタ、ペタ、ペタ、
前の廊下を通る、音。
ペタ、ペタ、ペタ、ペタ、ペタ、ペタ、ペタ、
「…ッ…」
……頼む…、そのまま帰ってくれ…!
扉のガラスも見れない。
目が、あいそうで。
「……………」
しばらく俯いていると、音はなりやんでいた。
顔を膝に埋めている体勢だった為、小さく身を解す。
……帰った、か…
そう思い、ゆっくりと腰を上げようと扉を見ると、
「…ッ!!」
扉の前に、進藤が立っていた。
俺は腰を抜かす。
ガラスにへばり付いて、そして進藤はニィッと笑った。
「せぇんせ」
ゆっくりと扉を開ける。
「見ぃつけた」
『恐怖』
俺の中に、その感情だけがぐるぐると渦を巻いた。
「何で逃げるの先生」
「…ッ…」
「僕寂しいよ?ちゃんと好きって伝えたから分かるでしょ?」
「…しん、ど…」
「先生をね、抱きたいの」
進藤は俺の頬に手を伸ばす。
そして口角を上げる。
「大好きだよ、先生」
進藤は、俺に小さくキスをした。
俺はそれに嫌悪を感じた。
「や、めろ…ッ!」
どん!と突き飛ばす。
進藤は後ろに倒れた。