小説

□捻れる 想い
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「あいつ、ホモだよな」

突然すぎる話題におもわず口に含んでいた牛乳を噴き出しそうになった。

「あ〜俺もそれ思ってた!」

するともう一人の田口が便乗する。

高校の昼休みにお前らはなんちゅう話題を…
俺はへぇ〜と言いながらストローに口をつける。

言い出しっぺの上野はだよなー!と言って盛り上がった。

「あいつずっと本読んでるけど、たまに顔上げた時は篠原の方見てんだって!」
「え、俺?」

…俺?なんで?

「なー!すっげ見てるよな篠原の事!ひゅ〜モテモテですな〜篠原く〜ん」

突然自分の名前が出され目を見開く。
――見てるって、あいつが…?

「篠原君、男にモテたね〜羨ましいよ〜」
「…代わってやろうか田口君」
「勘弁!」

ぎゃははは!と下品に笑った二人に合わせて俺も笑う。
馬鹿な話だ本当に。





『あいつ』とは森田昇という同じクラスの奴だった。
いつも教室で本を読んでいて(多分難しい参考書とか推理小説とか)人を寄せ付けない暗いオーラを放っている。
顔も地味で、けしてかっこいいとは言えない。逆に可愛いという訳でもない。
糸の様な目で本を眺め、時折顔を上げて休み時間を過ごしている。

その『顔を上げた』時に俺を見ていると言うのか。
それは果たして本当なのか、いやもし本当だとしてそれが何だというんだ。
見ているから『ホモ』だという仮説を立てるには情報が少な過ぎる。

…まあ、ただの暇つぶしの話題だったんだろうけど。


「あ、また」

田口がポロッと呟く。
視線の先には森田がいた。

「なに」
「また見た、森田」
「ハァ…お前好きな、その話題」
「いや、だって多分まじだもんよ」
「……」
「なぁ上野」
「だな、こら間違いねぇ」

…………。
『見てた』
だったらなんなんだ、ったく。
確かにホモだったら気持ち悪いけど。
俺の事を見てるなんて、なんだそれ。気持ち悪いなぁ。まあ100%違うだろうよ。




ようやく午後の授業も終わり、鞄に教科書を詰めている時。

「な、篠原」

陽気なテンションで近づいて来たのは上野。

「どした?」
「このあと暇?」
「あー暇かな。……なに、カラオケカラオケ?」
「カラオケ?」
「カラオケ?」
「行っちゃう行っちゃう?」
「行っちゃう行っちゃう行っちゃう〜!?」

俺もテンションが上がり上野と盛り上がっていた。のに

「行かないんだなー」

と、一気にテンションを下げる上野。
なんだお前は、糞。

「金ないの俺!ごめんね篠原くん!」
「ちぇ〜無駄にテンション上げちゃったじゃんかよ〜」
「いやさ、違くて」
「んん?」
「あのさ、森田、つけてみない?」
「は?」
「後ろからこっそりさ」
「……え、何故だい上野くん?」

こそこそと俺の鞄を掴んでワクワクと話す上野をじっと見る。
他の生徒はまだ教室に残り、なかなかうるさい。
その中に一人、浮いた存在――森田がいた。
……帰らないのかな
そう思いながら上野に目線を戻す。
上野はニッとした。

「あいつ、ちょっと謎じゃん?」
「謎…うんまぁ、よく分からんよな」
「ホモ疑惑上がってるし」
「お〜い、それはお前らだけだっつの〜」

笑いながらそう答えて森田を見た。

…え?

目、合った…?

「だからさ、跡つけよ〜よ篠原くん」
「……」
「篠原?」
「え、あ、うん、いや…」
「なん?」
「いや、やめよ、そうゆうの、感じ悪いよ…嫌だろされたら」
「そ?じゃ、やめるかー」

上野はちぇ〜と言いながらドアの方に歩いて行く。
俺も後に続いた。
するとけたたましいチャイム音がなる。

『2のB篠原一樹、至急職員室まで来て下さい』

「げ〜」

職員室からの呼び出しだ。
…こないだ欠点とった事だろうな…最悪…

「わり、先帰ってて」
「お〜怒られてこ〜い」
「るせぇなバーカ」

上野と一階で別れると、俺は職員室にいる担任の元に向かった。
怖いなーなに言われんのかなーお手柔らかにー

「篠原、お前やばいだろこの点数」
「さーせーん。で何点なんすか?」
「12点」
「…え、まじ?」
「まじ、英語と数学」
「まじ?」
「まじだ、馬鹿」

うっそー本気かよ〜……

「お前勉強したんか?してないだろ明らか」
「してないっすね〜忙しいくってー」
「忙しいってなんだ、テストより大事な事か?」
「あー…そのー、家の手伝い、とか、さ、へへ」
「そらお疲れさん、でもやれや勉強ぐらい」
「ですよね〜…」

担任は溜息をついて俺の頭を小突いた。

「今度再テストすっから誰かに教えてもらえ」
「誰かって…頭いい奴知り合いにいねぇよ?」
「…馬鹿ばっかだもんなーお前の周りは」
「あ、ひで」
「森田とかはどうだ」
「へ?」
「森田、あいつはいいぞーなにやらしてもたいていの事はやってのける」
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