小説

□背き切る心
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笑うと目元が赤くなる顔が好きだった。

「先生〜!」
原川は走りながら手を振って近付いてくる。
俺はそれに足を止める。
「どうした、こんな時間に。もう下校時刻は過ぎてるぞ」
「分かってるよ!それよりさ?俺とヤリたくない?」
ワザとらしく後ろで手を組み、しかし大胆な誘いに俺は溜め息を穿く。
「…あのなぁ…お前…、」
「お願い!もうこれで最期なんだし!」
「……」
「だってもう会えなくなるんだよ?」

今日は卒業式。感動と涙に包まれたのは、もう大分前の事の様に思える夜の校舎に人はいない。

高校三年生の原川は、去年の夏休みには関東地方へと就職が決まっていた。
こんな田舎な町より、若者はやはり都会に出たいのだろう。
それを聞いた俺はそれを握手する事で祝った。
すると原川は俺の手を握り返し、こう言った。

『卒業まで付き合って下さい。』

俺は驚き、始めは拒絶した。無理だ、付き合えないと。
しかし、好きだ、愛していると言われ、しまいには好き過ぎて夜も眠れないと言われてしまった俺は、『じゃあ卒業まで』と条件付きの付き合いを承諾したのだ。
それから半月が立ち、今日の卒業式に至る。

「ねぇ〜いいよね、先生?ねぇねぇ〜お願い〜」
原川は俺の白衣の裾を引っ張りながら駄々をこねる。
それが変におかしくて思わずフ、と声を漏らす。
「しょうがねぇなァ…」
クルッと背を向け、理科準備室の扉を開けた。
すると原川は喜びを体で表す様にして後ろから抱き着いて来る。
「やった!ありがとう先生〜愛してるよォ〜!」
「分かったから、そんなに暴れんなよ」
呆れ気味にそう言うと、原川はガチャッと扉の鍵を閉めた。
俺はチラ、とそちらに目を向ける。

「…先生、脱いで?」

























「ン、…フッ…」
「ちょっと先生、声抑えないでよ今日ぐらい」
原川は机に座った俺の足元にひざまずき、股間に顔を埋めていた。
半月経った今でも、俺はあまりこの行為になれていない。
自分だけが乱れているみたいでとても恥ずかしくなる。というよりも、俺のプライドが邪魔をして、完全に身を預けられないのだ。
「オ、イ…ッ原川…!」
「あにー?」
「も、…やめッ…離せ…!」
俺はイキそうになり、原川の顔を剥がす。
しかし、原川は離れようとしない。
いつもなら、俺が離せと言えば顔を離すのに今日の原川はしつこい。
「は、らかわ…ッ!」
チュッと大きく吸われ、俺は簡単にイッてしまった。
顔を離さなかった原川の口の中には俺の精液が放たれている。
俺は体を身じろがせた。
「ちょ、出せ!」
「え、あ、ゴメン、飲んだ」
「な…、お前記念すべき日になんて事を…!」
「ハハ、ごめんごめん」
クスクスと肩を揺らし、原川は小さく笑った。
すると原川は立ち上がり、ちゅ、と音のなるキスをした。
「愛してるよ、先生」
「またお前はふざけて…」
「ハハハ、本当なのにィ〜」
精液を飲まれた事で俺は顔を赤くしていたが、外は暗くなっているからバレていないだろう。今が夜で良かった。
もう時刻は9時を回る。
本当なら生徒は残っていたらいけない時間だ。だけど今日の自分はらしくなかった。
卒業か…
俺は、暫く笑っていた原川の声が、段々と渇いた物になっているのに気付いた。
「…ハハ、…ごかよー」
「原川?」
「最期かよー今日で終わりかぁー」
「卒業式だからな」
「相変わらず冷めてんのな先生は!」
ハハ!とまた笑い、そしてギュ、と俺の体を抱きしめた。
「変な感じー俺もう学生じゃないんだー制服着たらコスプレになるね」
「フ…そうなるな、」
「先生の授業も受けれないしー」
「寝てた奴が言うな、馬鹿め」
「ヒデー言いようだなぁ、起きてたよ」
「寝てたよ、お前は。当てても答えられないし」
「違いますー先生見すぎてて聞けてなかったたけですー」
「同じだろ」
「全然違うっしょー!」
俺はフフ、と小さく笑う。
暫く沈黙が続いた。
すると耳元で溜め息が漏れ、先程より強い力で抱きしめられた。
「…抱いてい…?」
いつもはそんな事聞かないくせに…
俺は原川の頭をポンと叩いた。
「最期だからな、」

原川は小さく笑った。
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