Long novels
□冷静と情熱と、それから
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間もなくの到着を告げる車内アナウンスに目が覚め、節々が硬くなっていた体を伸ばす。
シートとの間で揉まれ、少し癖が付いた長い髪を手櫛でなんとなく戻す。自慢の金髪だ。
まだ半分寝ていると言うのに、否応なく窓から射しこむ西日が目に沁みる。
うげ。
抱えていた帆布の鞄の中から、少し潰れたミネラルウォーターが入ったペットボトルを取り出し、一口、二口と口に含み、乾いていた喉を潤していく。
少し生温くなっていたが、しょうがない。まだ寝ている頭も時間が経つごとに状況を整理し、覚醒しだす。
長い間続いたこの列車の旅も、もうそろそろ終わりを告げる。
色あせた二人掛けの座席の隣には誰も座って居らず、時刻が夕暮れ前だからだろうか。車内を見渡しても乗客はそれほど多くはない。
特別語ることもない、サラリーマン、おばあちゃん達、大学生だろうか、若げな奴らが乗っているばかりだ。
先ほどまで窓から見えていた疎らに見えていた田んぼなどの緑は消え、徐々に灰色のビル群と、煌びやかなネオンに侵されていった。
「間もなく、宗郷。宗郷です。お出口は左側です。」
その後に忘れ物に注意。乗り換えのアナウンスと続く。
私は荷台に担ぎ上げていたトランクケースを降ろす。
ずっと使っている革張りのトランクケース。ママが学生の頃から使ってるって言ってたから、もう何年になるんだろうか。アンティークトランクケースというやつだ。
勿論タイヤなど付いていないから持ち運びは大変だけど、ママから貰ったこのこのトランクケースはものすごく気に入っていた。
ひも付きの鞄は肩から下げ、それなりの重さのケースを両手で持ってドアの前までゆっくり向かう。
この電車を降りれば、全く知らない街だ。
文字通り、右も左もわからない。下手したら、上も下も分からないかもしれない。
そんなの、最高にわくわくするじゃない。
電車はゆっくりと減速していき、遂に止まった。
プシュッと音がし、新しい生活へのドアが開く。
「明日夏、いくわよ。」
私は一歩を踏み出した。