今だけは重ねていようか。


ゆうと。

初めて俺が下の名前で読んだ時、彼は驚いた顔をして、その目からは涙がぽろり、ぽろり。そんなに嫌だったのかと焦る俺の様子を見て、涙を拭いながら笑って、ごめん違うよ、と謝った。

「母さんが俺を呼ぶのと似てたから」

そう言って赤い目をして笑う。男と女なのに?と思ったけど、栄口が言うんだからきっとそうなんだろう。

「ねえ」
「もう1回、呼んで?」

俺は何度も何度も名前を読んだ。ゆうと、ゆうと、ゆうと。その度に栄口は泣きながら、うん、と返事をした。堪らなくて抱きしめた背中は少し震えていた。

「ありがとう」
「大好きだよ」

そう言った栄口の言葉はもしかしたら、俺じゃなくて天国のお母さんに向けた言葉だったのかもしれない。

「俺も大好きだよ」

そう言った俺の言葉ももしかしたら、俺だけじゃなくて栄口のお母さんからの言葉でもあったのかもしれない。

「文貴、大好き」

最後にもう1度彼は呟いて、顔を上げて笑った。







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