篠岡って水谷と仲良いよね。そう言って俯く彼の表情はわからなかったけれど、私はなんだそういうことか、と全てを悟ってしまった気になっていた。午後の部活が始まる少し前、早めに着いた私は校庭に水をまいていて、栄口くんはそんな私の後ろでボールを磨いている。どうして、と尋ねると、よく二人で話してるし、と答える。疑惑は確信に変わる。天気のいい午後は水の描く放物線が虹を造っていた。 「もしかして、付き合ってるの」 「そう見えるかな」 「うん、まあ、少しは」 「そっかあ」 馬鹿だなあ、水谷くんが好きなのは貴方なのに。そう思いながら本当のことは言えずにいた。最後の最後まで悪足掻きを続ける自分が酷く惨めで、ボールを磨く手を震わせる弱弱しい振りをした彼に酷く苛立った。水谷くんは貴方の為にあんなに泣きそうな苦しそうな笑顔を浮かべているのにどうして気付かないの。地面の色がすっかり湿った茶色に変わる頃、私は彼に言った。 「今のところは、ね」 想い合っている二人はすれ違っていてもきっといつかは結ばれる、と信じてしまえるくらいにお互いを想っていることがわかってしまったから。馬鹿だなあ、水谷くんが好きなのは(私ではなくて)彼なのに。 脆弱な 予防線 (そんなの何の意味もないのに) きっといつかは本当のことがわかってしまって自分の願いは叶わないとしても最後の最後までみっともなくもがいてしまう自分に嫌気がさしてしまう。恋するオトメンな栄口が書きたかった・・・。 |