どうして俺のこと責めないんですか。俺のせいで負けたのに俺のせいで夏があんなにも早く終わってしまったのに。どうしてみんな平気な振りをして「お前だけが悪いんじゃないよ」って笑ってでも1度も引退してから部室に顔出してもくれないし廊下で会っても適当な挨拶をするだけで前みたいに絡んでもくれないし和さんも山さんもみんないつも参考書の入ったプラスチックの鞄を持って足早に下校するし慎吾さんだって、最近はいつも女連れでどこに行ってんだか知りませんけど帰るし。それなのに俺には部活ちゃんと行けって頑張れって来年こそは甲子園行けってそんなこと言われたって苦しいだけです。どうしたらいいんですか、俺。 そう言ってグスグスと目の前で泣く後輩は、おおよそマウンドで頼もしくシンカーやらフォークやら速球のストレートやらを投げていた投手の姿とはかけ離れていた。あの試合からこいつはいつもこんな感じで、部活も行かない日が続いているらしいし夜に繁華街をふらふらしていたりする。そんな夜の繁華街で遭遇することが俺は多くて、もともと綺麗なお顔のこの後輩が悲しみにくれてやけに弱弱しさを曝け出しながら歩いているもんだから、危なっかしくてその日に引っかけた女も置き去りにして、何故か家に連れてきてしまうことが、週に1回や2回じゃなくなってきた頃、ようやく準太は話し始めた。 「とりあえずいくつか間違えを直すけど、」 一つ、負けたのはお前の責任じゃない。一つ、引退後に部室に顔を出すほど受験生は暇でもなければ、俺らそこまでふてぶてしくありません。一つ、受験生は勉強するのが当たり前です。一つ、慎吾さんの女遊びは今に始まったことじゃありません。ていうかお前の言ってること全部なんか違うからな。それからさ、夜道は危ないからもうあんなとこフラフラしてんなよ、な。慎吾さんお前が変な男にイケナイコトされたらどうしようって気が気じゃねえんだよ。 「だって、あそこに行けば、慎吾さんに会えると、思った、から」 途切れ途切れに話す準太は依然として顔を上げずに泣いていた。嗚咽の間に紡ぐ声。ずるいよな、お前。そう口に出せばビクッと震えて小さな声でごめんなさい、とまた呟いた。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。殺風景な俺の部屋に響く声はどこか空っぽで、俺もまたずるい、と言ったけどそれすら空虚な響きしか持っていなかった。 準太をここまで追い詰めたのは紛れもない俺達だ。準太が俺に会いたがるのは、和の正論に耐えられないからだ。山さんの笑顔に耐えられないからだ。前チンにも雅也にも本山にも。特別な好意なんかじゃなくてただそれだけのことで消去法ってやつ。きっとみんな準太に言ったんだ。いいんだお前は悪くないよこれからも頑張れ。その言葉はまるで呪いだ。割り切らなきゃって思いと本当に頑張ってほしい思い、そしてその中にそっと潜んでいる影の部分。お前にはまだ来年があるもんないいよな。羨望と嫉妬と責任転嫁の重圧。まるで呪いだ。準太の生活にひっそりと色濃く落ちた影だ。俺は何も言わなかった。ただ準太の話を聞いた。励ましも慰めもしなかった。肯定か否定か。それだけだった。 「ホント、ずりぃよな」 そう言って準太の頭を撫でてやれば、ごめんなさいと言って準太は俺に抱きついて本格的に泣き始めた。苦しそうだなって思いながら俺は何もできないと思った。例えば俺がたまに部室に顔を出せば少しでも気が晴れるだろうが、例えば俺が女遊びを辞めて真面目に野球の強い大学を目指せば罪悪感は和らぐだろうが、でも生憎、俺はそこまで大人にはなれない。部室に行くにはまだまだ複雑なものがあったし、それを紛らわすためにどうでもいい女の子たちとの快楽は必要不可欠だと思った。 ただこうやって泣きついてきてくれる相手が俺だってことに少し優越感を覚えながら、背中を擦ってやった。この呪いが続く限り、準太は俺をいつまでも必要とするんだろう。それをわかった上で、ただこいつを甘やかすばかりで、根本的解決に踏み出そうとしない。むしろ一緒に堕ちていってくれたらいいとさえ思う。なあ、お前そんなに辛いなら野球辞めちゃう?何度も飲み込んだ言葉を口に出す日も来るのかもしれない。 きっと1番ずるいのは俺だ。 『花綴』様。企画提出文。 ありがとうございました!! |