おお振りテキスト

□桜色、舞うころ
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桜の花はまだ咲かない。



いーずみ、校庭の真ん中から俺のいる校庭の隅の花壇まで走ってきた人はボタンのない学ランを羽織って目立つ明るい髪色、ニコニコと笑っていた。俺は笑えない。これあげる、差し出されたのは見覚えのある彼の大事な大事なもので、まだ使えそうなそれに嫌な予感がした。まだ使えるだろ。泉が使えば?相変わらず笑顔は崩れない。俺も笑えないまま。

「高校、どこ行くんすか」
「どこだと思う?」
「真面目に答えろよ」
「相変わらず生意気だねえ」

そうだなあ、と浜田先輩は言った。そうだなあ、じゃあ泉が野球を辞めたら教えてあげるよ。温度のない笑顔が俺を凍らせる。嫌な予感がしたんだ。言葉に詰まった俺の手に無理矢理差し出したものを持たせると、じゃあね、と言う。歩き出す先輩。立ち尽くす俺。嫌だ嫌だと頭の中に響く不快音。そんなの嫌だ。

「先輩、野球続けるよな?」

立ち止まって振り返ってニカッと笑う先輩の背景に、でかいグラウンドを見た気がしたけど、その左手にはグローブはなくて、そのグローブは俺の右手にあった。 俺のすがるような問いに答えはなくて、

「いずみ!野球、頑張れよ!」
























桜色、舞う頃
春、俺は変わらずグラウンドにいた。先輩との連絡は、途絶えた。



































浜ちゃんは泉が一緒に辞めてくれたらってどこかで思ってるけど、その感情が正しくないこともわかってる。頑張っての言葉も嘘じゃないから泉も野球を辞めない。続編書きます。

song by 中島美嘉


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