「…見つけたで、れいな」
その声に振り向くと、ほんのりと汗をかいたお兄ちゃんが歩いてくるのが見えた。
変わらない約束
「お兄ちゃん、来てくれたんだ…」
「来てくれたんだ、やないやろ!どんだけ探した思うとるん!?」
「ご、ごめんなさい」
慌てて謝る私に、お兄ちゃんは「まぁ、ええわ」と言ってジャングルジムに寄りかかった。
「お兄ちゃん覚えてる?7年前、あの桜の木の下でした約束」
そう言って桜を指さす私を、お兄ちゃんは見上げた。
「当たり前や。あんだけびーびー泣かれたら忘れるわけないやろ」
苦笑いしながら、お兄ちゃんは桜の木の下へ向かった。私が何もしないで見ていると、ちらっとこっちを見て「はよこっちきぃ」と手招きした。落ちないように一段一段ゆっくりと下りてお兄ちゃんのもとへ向かう。そこで見上げた桜の木とお兄ちゃんの顔は、私に7年前の出来事を鮮明に思い出させた。
7年前、私は引っ越すのが嫌で家を飛び出した。泣きながら走って辿り着いたのがこの公園。この桜の木の下でしばらく一人泣いていたら、お兄ちゃんが息を切らして探しに来てくれた。
『おまえっ、なに一人で家とびだして泣いとんねんっ』
『おにぃちゃん…。わたし、おにいちゃんとはなれたくないよぉ』
『おれかてそうや』
私の涙をお兄ちゃんの親指が乱暴に拭う。
『れいな、よぅ聞き』
『うん…』
『こまったことがあったら、いつでもお兄ちゃんをよぶんやで。お兄ちゃんがいつでも助けたる。だから泣くんやない』
そう言ってぎゅっと抱き締めてくれた。嬉しくて余計に涙が止まらなくなった私に困ったような顔をしながらも、お兄ちゃんは泣き止むまでずっと傍にいてくれたんだ。
「れいな」
「ん?」
「あの約束に、有効期限なんてあらへん」
「お兄ちゃん?」
まっすぐに私を見るお兄ちゃんの目。いつもは鋭い目つきも、今では凄く優しい。
「この意味、分かるやろ?」
「…うん!」
分かるよ、お兄ちゃん。昔も今も、そしてこれからも、お兄ちゃんは私を助けてくれる。私だけの大好きなお兄ちゃん!
「ほな、帰ろか。寒くなってきたし、風邪引いてまうで」
「はぁーい。お兄ちゃんは顔真っ赤にして暑そうだけどね」
「やかましっ!」
お兄ちゃんから照れ隠しのチョップをくらった。…結構痛いんですけど。
(20100401)