(ユウジside)
「あー…頭いてー…」
落ち着いて新幹線にも乗れへんわ
「ユウ君、大丈夫?」
「こはるぅー…」
新幹線の中、席を回転させて向かい合って座る優しい優しい俺の小春が頭痛に襲われる俺を心配してくれる。原因は隣で寝てるこいつ、れいな。耳元にある目覚まし時計を大音量でセットしよった。それだけやない。朝から俺に対して機嫌がよろしくない。そのくせ、今は俺に寄りかかって寝息をたてている。なんか腹立つ。
「そもそも、何で俺がこいつの隣なん?俺は小春の隣が良かったんや!」
小春の隣には財前が座っとる。つまり、俺・れいなの席と小春・財前の席が向かい合っとるっちゅーことや。
「くじ引きやからしゃーないッスわ。そんなん言うなら、俺が席交換したります」
「…いや、俺が動いたらこいつ起きるで。起きたら起きたでめんどいからええわ」
「俺がまた寝かしたります」
「……いや、やっぱりこのままでええわ」
「は?訳分からんのやけど」
「なんやねん。悪いか」
「悪いというよりうざいッス」
「なんやと!?」
ほんっまに可愛くない後輩やな。れいなといい財前といい、今年の2年は教育がなっとらん。腹立つ。ほんまに腹立つ!
「まあまあ。2人とも、素直にれいなちゃんの隣に座りたい言うたらええやないの」
「そんなんちゃうで」
「そんなんちゃいます」
「マネすんな財前」
「モノマネばっかやってる先輩が言える台詞やないと思いますけど」
「(こいつ…!)」
フン、と勝ち誇った顔をする財前。誰かこいつを黙らせてくれ。ついでに新幹線から下ろしてくれ。グッバイ財前。
「ん…」
あ。れいなの奴、起きてもうた。
「あら、おはようれいなちゃん」
「おはよ、ございます」
寝呆けながらも小春にペコリと頭を下げるれいな。寝起きだからか声がかすれている。
「ほら、お茶」
「ん」
れいなのバッグからはみ出していたペットボトルのお茶を渡せば、素直に受け取り飲み始める。いつもこんだけ素直なら可愛え妹なのにな。ついでに財前も。…いや、素直な財前はないか。財前が素直て気持ち悪すぎる。…うぇっ、想像してもうた。
「ユウジ先輩、人の顔見て嫌な顔するの止めてもらえます?ほんまないッスわ」
「あ?お前の方がないわ」
「ユウジ先輩や」
「いや、財前やって」
あかん。こいつと話してると気力と精神力持ってかれる。俺と財前絶対合わへん。ペアやなくてほんまよかった。心の底からよかった。
「お前らさっきからうるさいねん!少し黙っとけ」
通路をはさんで隣に座っとった謙也がペットボトルで俺と財前の頭をバコンバコン叩いた。物凄いスピードで叩くもんやから地味に痛い。
「ユウジ先輩が悪いんスわ」
「財前が喧嘩売ったんやろ」
「ええから黙り」
「「…すんませんでした」」
東京着く前からめっちゃ疲れた。こんなんで全国大会大丈夫なんやろか。先が思いやられる。財前のせいで。
(20110608)