(謙也side)
無事に練習試合が終わり、只今旅館でミーティング中や。
ガチバトル
山吹はさすが全国区だけあって強敵やった。俺はダブルスの試合メインやったけど、地味's(千石がそう呼んどった)も葉っぱとグルグル(名前は…外見が印象的すぎて聞いたけど忘れた)も強かった。コンビネーションとテクニックが抜群に良かったな。で、ミーティングは全員が入浴をすませて寝るだけになってから始めた。今日の試合の反省を1人ずつ言ってって、れいながノートにメモを取っている。れいなは山吹でもマネージャーをやっとっただけあって、仕事が出来るええマネージャーや。
「ほな、最後は金ちゃん」
白石が金ちゃんを指名する。
「わいは強い奴と試合出来て楽しかったで。またやりたいわぁ!反省は…えーっと……まだ東京のおいしい食べモンをお腹いっぱい食べてないことや!」
「そこかい!」
――ボフッ…
ユウジがツッコミで近くにあった枕を金ちゃんに投げた。見事顔面ヒット。
「わ!金ちゃん大丈夫?」
れいなが心配そうに声をかける。その兄貴はというと、面白くなさそうにれいなを見とる。
「やったな、ユウジー!やり返したるで!」
「ごふっ!」
今度は金ちゃんがユウジに枕を投げた。こちらも顔面ヒット。ユウジの額に青筋がたった。
「やんのかゴルァア!」
「おもろいやん、やったるわ!」
あーあー、ガキかユウジは。先に仕掛けたのお前やで。れいな見てみぃ、ポカーンとしとるわ。そんなんお構いなしに、ユウジは押し入れの中に入っとった枕を全部出した。
「いくで、金ちゃん」
「臨むところや、ユウジ!」
「ちょ、2人とも…」
「「おりゃー!」」
白石が止めに入ったのも虚しく、2人だけの枕投げ大会が始まった。ミーティングは台無し、部屋はぐちゃぐちゃ。…実に低レベルや。
「やめて、ユウくーん!」
「小春!?」
小春がユウジと金ちゃんの間に入って枕投げを止めようとする。ナイスや、小春!小春に言われればユウジも止めるやろ。
――ボフッ……
「あ」
金ちゃんが投げた枕が小春の顔面に当たってしもた。
「…金太郎はん、わいに何してくれんの?」
眼鏡を光らせて金ちゃんを見る小春。どす黒いオーラ出とるで。金ちゃんびびっとるやん。
「ユウ君、少し枕貸りるで」
「お、おん」
ユウジが小春に枕を渡す。はい、小春参加決定。誰か止められんのか、これ。
「2対1なんて卑怯ッスわ、先輩ら」
面倒臭そうに3人を見る財前。そうや、財前や!お前の毒舌ではよ止めてくれ!
「光ー、わいを手伝うんや!」
「ええよ、金ちゃん」
ええんかい!枕を手にし、ニヤリと笑う財前。こいつ、何か企んどる…!
「ほな、いくで。そーれ」
「ぶっ!?」
気付いたときには俺の顔に枕が飛んできた。
「あ。すんません、謙也さん」
「……ざいぜぇえん!」
わざとや。こいつ、絶対わざとや!最初から俺目当てやったんや!なんやその「してやったり」っちゅー顔!腹立つわ!俺は落ちていた枕を拾い、思いっきり財前へ投げつける。
「くらえ財前!」
「残念」
俺の動きを先読みしていたのか、財前が顔だけ避けた。
――ボフッ…
「「あ」」
あああかん、財前の後ろにいた白石の顔に当たってしもた。白石からみるみるうちにどす黒いオーラが放たれる。
「……謙也、喧嘩売っとんの?」
「ちゃう!ちゃうで、白石!今のは財前が悪いやろ!」
「当てたのは謙也さんッスわ」
「お前が避けたからやろ!」
普段あまり怒らない白石が怒るとほんま怖いんや。何されるか分からんからな。
「何事もやられっぱなしは好かんなぁ。財前、枕貸し」
「はい、部長」
白石が財前から枕を数個受け取る。
「謙也、覚悟せぇ」
「うわっ!ちょ、2人して投げてくんな」
「謙也さんが悪いんスわ」
「そうやで。れいなちゃんの前で鼻血出したらどないしてくれるんや。なぁ、れいなちゃん?」
「え、えっと…」
苦笑いするれいな。もはやミーティングなんてそっちのけで激しい戦いとなってしもた。最初はターゲットを絞っていたものの、だんだんと当たれば誰でもよくなってきて、もう誰に投げて誰に当てられてんのか分からん。せやけど、負けてられんっちゅー話や!
「いいかげんにせんと、れいなちゃんに愛想つかされるで」
ボソッと呟かれた小石川の一言にピタッと止まる一同。
「れいなはんが山吹に帰る言うたらどないするん。それでもええんか?」
更に追い打ちをかけた師範の一言に、手から枕を落とすユウジ。しぶしぶ置く財前。素直に置く金ちゃん。反省する白石。そして俺は小春と目が合ったあと、どちらからともなく静かに枕を置いた。
「よし、ミーティングは終わりや。解散!」
何事も無かったかのような爽やかな白石の一言で、ミーティング(もはや枕投げ大会)は終わったのだった。ちゅーかこの汚くなった部屋、どないするんや。
「謙也さん、片付け頼んます」
………俺かいっ!
(20110219)