(白石side)
「れいなちゃん、ちょっとええ?」
昼休み、俺はれいなちゃんのクラスを訪ねた。
練習試合しましょ
「白石さん!今から光くんと屋上でお弁当を食べようとしてたんです。何のお話ですか?」
俺を見るなり笑顔で近づいてくるれいなちゃん。ほんま、ええ子や。それに比べて財前は「何しに来たんや」って顔しとる。可愛くない奴やな。
「ほうか。合宿の話なんやけど…少し時間かかるから、俺もお昼ご一緒してええか?」
「もちろんです。ね、光くん?」
「…ええよ。合宿の話なら俺も気になるし」
おい、一瞬めっちゃ嫌そうな顔したで財前。ま、れいなちゃんと2人の時間を邪魔するのは悪いとは思っとる。いつも2人でおるんやから、今日ぐらいは我慢してや。
「ほな、お昼ご飯持って屋上集合で。たぶん暇してる謙也も連れて行くわ」
「了解です」
軽く手を振り、俺は自分のクラスの教室へと戻った。
「こんにちは、忍足さん」
「おぉ。朝練ぶりやな」
謙也と2人で屋上へ向かうと、れいなちゃんと財前が校庭を眺めていた。4人で日の当たる場所に座り、お昼ご飯を食べ始める。
「さっそくなんやけど、話してもええか?」
「はい、どうぞ」
おいしそうにおにぎりを食べるれいなちゃん。その隣で謙也が猛スピードで焼きそばパンを頬張っている。
「今回の合宿はな、レギュラーだけで東京に行こうと思っとるんや。れいなちゃんがいたのは山吹中やろ?全国ですぐ当たるっちゅーことはないはずやから、もしよかったら練習試合を組んで欲しいと思って」
「え!?」
声を上げて驚くれいなちゃん。
「山吹中と練習試合か…。これまた遠くまで行くなぁ」
謙也も驚いてパンを持つ手が止まっていた。急な話やからな。
「全国大会も東京でやるんやし、事前に行っといて損はないやろ。なぁ、財前」
「何で俺に振るんスか。そもそも山吹中について詳しく知らんし」
あまり興味無さそうにサンドイッチを頬張る財前。れいなちゃんが前いた中学やで?気にならんわけないよな?(まぁ、俺が気になっとるだけやけど)
「山吹中は全国レベルのダブルスが有名やな。あのー、何やったっけか……北?東?西方?」
「南部長と東方副部長です」
「そう、それや!あとはシングルスの千石君も有名やな。亜久津君っていうんが一時期おったみたいやけど、今は退部したみたいやし」
たまには練習試合で刺激してやらんと、金ちゃんなんかはつまらんやろうし。財前も次期部長やし、今のうちにいろんな経験をさせてやりたい。
「今、南部長に聞いてみます?」
「頼むわ」
れいなちゃんが携帯を取り出し、南君に電話をかける。
『もしもし』
「こんにちは、南部長。れいなです」
『久しぶりだな。どうした?』
「ちょっとお願いがあって。今、時間大丈夫ですか?」
『あぁ』
れいなちゃんが練習試合について南君に話してくれとる。俺ら3人はお昼ご飯を食べながらその様子を伺っとった。
『…なるほど。こっちも刺激してやらないとチャラチャラしてるのがいるしな。東方や千石にも相談して、明日までには返事をするよ』
「ありがとうございます。さすが南部長!」
『おだてても何も出ないか…『れいなちゃぁーん!久しぶり!』
「うわっ」
慌てて携帯から耳を離すれいなちゃん。携帯ごしにこっちまで聞こえるでかい声。たぶん千石君やな。
「キヨ先輩、お久しぶりです」
『うん!れいなちゃん元気?そっちは楽しい?お兄ちゃんとはうまくやってる?それから…』
「ス、ストップ!一度に沢山聞かれても…」
『あぁ、メンゴメンゴ!久しぶりにれいなちゃんと話せたから嬉しくなっちゃって』
余程声がでかいのか、携帯を耳から話して会話するれいなちゃん。その表情はめっちゃ笑顔で、千石君との仲の良さが伺えた。
「れいなちゃん、随分と楽しそうやな」
ポツリと謙也が呟く。
「そやな。俺ら、忘れられてるんとちゃうか?」
「………」
そう財前に言うと、財前の眉間に皺が寄ったのが分かった。あかん、嫌な予感がする。
「うわ、光くん?」
れいなちゃんから携帯を奪い、耳に当てる財前。
「すんません。大事な話は終わったみたいやから切りますわ。ほな」
ブチッ…
予感的中。財前の奴、勝手に携帯を切りよった。
「あー!ちょっと、勝手に切らないでよ」
「ダラダラ話してるれいなが悪いんや」
それから2人はあーだこーだ言い合いを始めた。柄にもなくポカーンとしてしまった俺。ちらっと謙也を見ると苦笑いしとった。そやな、それが正しい反応やな。
「白石…財前のやつ、自分で気づいとるんかな」
「…いや、気づいとらんやろな」
財前、それは嫉妬や。謙也でも気付くほどやで。謙也のことヘタレ言うとる場合やないやん。
「あんな財前、初めて見たわ」
ポツリと呟く謙也に、俺はただただ頷いた。
(20101205)