(ユウジside)
「れいなちゃん!」
近くにいた白石が慌ててれいなを水の中から助けだした。
子供じゃないもん
「大丈夫か?」
「ゴホッ……はぁ…はぁ……だいじょうぶ、です……」
怖かったのか、白石にギュッと抱きついとるれいな。白石はれいなの背中を撫でて落ち着かせていた。
「ユウジ、れいなちゃんにジャージ貸してやり。着替えたら風邪引かないうちに帰らせてやって。金ちゃんには俺からお仕置きしといたるわ」
「おん。すまんな」
「ええよ。金ちゃんには毒手しか効かんからなぁ」
白石と目が合ってビクッと肩を揺らす金ちゃん。事故とはいえ悪いことしたで、金ちゃん。
「金ちゃん、お仕置きや。覚悟しぃや…」
「毒手!?まだ死にとうないんや、勘弁してぇな!」
「あかん、許さん」
白石が逃げようとする金ちゃんの腕を掴む。れいなは白石から離れ、俺のところに来た。
「れいな、行くで」
「うん」
れいなをプールサイドに上がらせ、服の水を絞らせる。見事に水浸しや。俺はバッグからジャージを取り出し、れいなに渡した。
「暑いかもしれんけど、あいにく長ジャージしかないんや。これで我慢しぃ」
「うん、ありがと」
「着替え終わったらチャリ置き場で待ち合わせな」
「はーい」
更衣室へ向かい、ささっと着替え、俺はチャリ置き場へと向かった。
「お兄ちゃん、おまたせ」
「おー。めちゃくちゃ待ったわ」
「女の子にそんなこと言ってると彼女できないよ」
「やかましいわ。第一、お前女の子か?」
「失礼な。弟だと思ってたの?」
「ガキ」
「バーカ」
「…置いてくで」
「ごめんなさい」
全く、腹立つやつやな。こんなんやったら小春といたかったわ。
「そいえばお兄ちゃん、今日はチャリで来たんだったね。寝坊したから」
「そや。乗せてやるんやから、寝坊したお兄ちゃんに感謝しぃや」
自転車に跨り、れいなを後ろに乗せて漕ぎ始める。あー、軽い。こういうときに、こいつは女の子やって感じるんや。
「よく『うわーん!お兄ちゃーん、水怖いよー!』って泣かんかったな」
「…何年前の話よ」
「さぁな。今でも水は得意やなさそうやな」
「その通りです」
こいつがまだ大阪にいた頃、市営プールで泣き出したれいなにめちゃくちゃ困ったのを思い出したわ。ほんま、面倒くさかった。
「でも前よりは大丈夫だよ」
「どうだかな」
「もう子供じゃないもん」
「へーへー」
適当に返事をしたら背中を指で突かれた。春に久しぶりにこいつに会ったとき、前会ったときよりも随分と大人びていたのは俺も感じていた。言葉使いが綺麗になって、お洒落もするようになって、華奢なかんじがして…。ちっこいガキやと思ってたのにな。
「…いつの間にか女になったんやな」
「なんか言った?」
「言っとらん」
ボソッと呟いた俺の顔を覗き込むように、れいなが顔を寄せた。まだ乾いていないれいなの髪が、俺の頬に触れてくすぐったかった。
(20101128)