(財前side)
「財前!れいなは大丈夫なんか!?」
狙われたマネージャー
「軽く頭を打ったみたいで腫れとります。担任には保健室の先生が連絡しに行ってくれてるんで、代わりに俺が付き添って冷やしてるところですわ」
「さよか…」
ユウジ先輩は近くにあった椅子を俺の隣に移動させ、そこに座った。眠っているれいなを見る顔は、妹を心配するお兄ちゃん、っちゅー顔やった。
「すみません、ユウジ先輩。俺の不注意で…」
ユウジ先輩は横目でちらっと俺を見ると、はぁとため息をついて額に手をあてた。
「財前のせいやないで。こいつが勝手に落ちたんやろ。ほんま、アホやこいつ…」
「ちゃいます」
「は?」
れいながただ落ちただけでないことを、俺は知っていた。確信しているわけではない。悪くいうとただの勘やけど。
「れいなが階段から落ちたあとに上を見たら、3年らしい女がれいなを見てました。そいつがれいなのこと押したんやと思います」
「それって…」
「こいつ、狙われてます」
ユウジ先輩が目を見開く。
「何で財前はそう思うん?」
「あの女、見たことあるんです。部長に家庭科で作ったらしいお菓子をあげてたんスわ。せやから部長のファンなんかなと思いまして」
「…なるほどな」
可能性は十分ありそうや、と呟いて頭をかかえるユウジ先輩。俺もユウジ先輩も、余裕なんてなかった。れいなが狙われているのは、間違いなく俺らテニス部のせいやった。このまま俺らと一緒におって、れいなは大丈夫なのだろうか。
「おにいちゃん…?あれ、ひかるくんも…」
バッと視線をれいなに移す。れいなは体をゆっくりと起こし、痛むであろう頭をおさえながら俺らを見た。
「お前が階段から落ちたって財前から聞いて来たんや。頭打ったとこ、大丈夫なんか?」
「…ガンガンする」
「念のため、病院に行った方がよさそうやな」
ポンポンとユウジ先輩がれいなを撫でると、れいなは安心したように微笑んだ。
「お前の荷物持ってくるから、おとなしく待っとけ」
そう言い残し、保健室を出る。悪いけど口実を作って逃げた。今れいなとおったら、考えすぎて頭がパンクしそうやった。大きな責任を感じてしまう。取り敢えず落ち着こうとゆっくりと息を吐き、教室へ向かおうと片足を出したその時やった。
「れいな、正直に答えるんやで。何で階段から落ちたん?」
ユウジ先輩の質問に足が止まる。冷や汗が流れるのを感じた。れいなが押されたと推測したのは自分やけど、それがただの推測で終わればいいと願った。
「……後ろから押された」
けどその願いは呆気なく壊れた。罪悪感が募る。俺が、れいなに冷たく当たらなければよかったんや。何であんなに苛ついてたんやろ?…分からん。
「お兄ちゃん。何だか怖いよ」
俺は拳を握って俯くことしかできなかった。
(20100928)