05/20の日記

19:17
突発
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※限良♀(注・特殊設定)












 長い坂道を上りきり、ふぅと良守は溜めた息を吐く。
 まだ夏前とはいえ、照り付ける陽射しは夏の熱を持ち、肌にチリチリとした暑さをもたらしたが風だけはまだ初夏の涼しさがあり火照った体を心地良くさせた。
 小さな荷物を両手に持ち、坂道をのぼりきった先に広がる景色に目を細めた。
 後ろは田園風景の広がった集落。前は歴史を感じさせる墓地。
それだけ埋葬した人数が多い事を物語る広い敷地。
 良守は荷物を持ち直し、何度も来て覚えた順路で迷わずそこに向かった。
途中水場に荷物を置き、また進む。
 古いがきちんと手入れされたお墓。添えられてそれほど時の経っていない仏花。横には古びた名前の羅列。
そこに、溝はうっすら浅くなったが真新しい名前。
 良守は汲んで来た水で墓石を綺麗に清めると、花を添え線香を立て、手を合わせる。
真っ直ぐ墓石を見据え、ニコッと微笑んだ。
「久しぶり、限」
 中学生のあの日を境に故郷の土に眠った限に、良守は微笑みかけ、とめどない話をする。
 時音は今大学生で卒論に終われているとか、それでも頑張って烏森の仕事しているよとか、夜行の皆は元気だよとか、久しぶりに会う親しい人に語りかける。
 限はあの日の言葉通り満足してしまったのか、幽霊にもならず遠い所に行ってしまった。
四十九日はこの世に留まるというが、見える良守でも一度も見た事がなかった。
ちくん、と寂しさが胸を打つが、良守は微笑んだ。
 「―おかーさーん」
トコトコと、水場で籠ごと冷やしていた果物を持って幼い子供が限の墓の前にいる良守に向かって歩いて来た。
 それにまた微笑むと、良守は子供に向かって手を差し出した。
褐色の小さな手が良守の手に乗せられる。
「冷えたら教えてくれるだけで良かったんだぞ」
「…お手伝いしたかったし、一人嫌だった」
きつく吊った目が寂しそうに下がる。
良守は「ありがとう」と笑うと、子供の逆立った髪ごしに頭を撫でた。
 「じゃあ、みんなで食べよっか」
小さなレジャーシートを地面に敷き、子供が持ってきてくれた冷えた果物を紙皿に分ける。
 葡萄や桃、透明な容器にいれ、カットされた他のフルーツ。
 良守は毎年、限の命日に限の墓に来た。
良守すら限がこの世から去った後に宿していたと気付いた子供を連れて。
 限に本当にそっくりで姿形だけでなく、甘いものが苦手で、人見知りが激しくて、さみしがり屋で、なのに無口気味で、それでも飛び切り優しくて。
 シャク、とカットされたスイカを子供が食べる。
菓子の甘さは苦手なのに、果物の甘さは大丈夫な所も限にそっくりで。
 毎年命日に訪れる家族三人の時間。
 父親だと認識する前にこの世を去った彼がいれば、どうなっていたのかわからない。
 良守は思う。
子供は限の生まれ変わりではなく、限の想いなのだと。
 未来なんて考えた事ははっきりとはなかった。ただ未来が穏やかで、誰も傷付かなければいいと、漠然としたものだった。
 だから。

 方印を刻んで生まれて来た限そっくりな子供。
この子がその印を良守から受け継ぎ、烏森に行くまでには穏やかな時が来れば良い。
 彼が願ってもほとんど手に入らなかった穏やかな子供時代をこの子に注ぎ、彼が見る事が出来なかった未来を見せてあげる。
 限が良守に不器用ながら注いでくれた想いも、この子に注いであげたい。
 果物を食べ終わり、後始末を終え、良守は子供の手を引いて帰路に着く。
 片手から荷物がなくなったぶん、良守はいたずらっぽく笑って子供を抱き上げた。
 子供は恥ずかしそうに良守の体に手を突っぱねたが、良守のギュウッと抱き着く力に負けて大人しく良守に身を委ねた。
 すっかり重くなった子供に喜びを感じながら、良守は同時に子供が良守に抱き着き返す力を感じ、笑った。


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全く違う感じのある意味家族設定のお話。

限は原作通り亡くなってます。
良守はその時すでに妊娠しており、未婚&未成年の母になったわけです。
それでも頑張って子供を育てたわけです。
恐らく高校には行ってない。

子供は普段の家族設定の誠ちゃんでも快ちゃんでもないので、リンクしてません。


普段と違う雰囲気のシリアス風味のほのぼの目指して玉砕\^o^/←

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