♪Story♪

□至福の時
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 「しっしおーッ!今日のサボりのお菓子持ってきたぞッ!……アレ?」
天気の良い昼下がり。最近ずっと吹いていた冷たい秋風も今日は身を潜ませて暖かい空気に包まれた絶好のサボり日和の屋上。
夜の仕事を終えた後に手早く作ったカップケーキを入れたタッパを傾けないようにしながら梯子を昇った良守は何時もなら先にいるはずの恋人の姿が無い事に間の抜けた顔になった。
 「…志々尾?」
いつもならここに寝そべりながら、目を向けるか片手を上げて応えてくれるはずの恋人の姿がどこにもない。
良守は梯子を昇り終えると、とことこと自分の定位置に足を進めてペタンっとその場に座り込んだ。
「どっしたのかなぁ…。誰かに見つかったかな」
まず誰かに見つかるようなヘマはしない奴だと知っているが、もし運悪く教師に見つかったのならいくら限でもあまり素行の悪い所を見せるわけにはいかないだろう。
人に対して冷たいと取られる態度を取る限でも、思いやりのある人間だっ知っているし、目上の者に対して滅多な事で不躾な態度は取らない。
 良守は制服のプリーツスカートが広がるのをきにしつつ、足を盛大に伸ばして両手を後ろについて空を見上げた。秋の高い空が真っ白な雲をゆっくりと流しているのが目に映る。
 静かな時間。限が転校してくる前は、この静かな時間が当たり前だった。
枕を持ち込んで一人で日差しを燦々と浴びながら昼寝をするのがこの上ない至福の一時で、大好きだった。
 限にこの場所を見つけられた時は最初こそは陣地争いまでしていたが、今では自分の作った甘さ控え目のお菓子を試食してもらたり、他愛のない雑談をして、口下手な限が必死に言葉を選びながら話すのが嬉しかったり、主に自分からだけども軽くからかいあったり、最後は自分の枕を限に貸して、代わりに限の腕を自分の枕にしてくっついて一緒に昼寝をするのが大好きだ。
 しかし、それこそくっついて昼寝を始めた頃は、限は首まで真っ赤になって良守に差し出す腕が緊張で堅くなっている程だった。


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