♪Story♪

□お互い『まもりたいもの』
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 『……またかぁ』
上履きを慎重に履き、それが伝わって一瞬顔をしかめるが、良守は何もなかったようにそのまま足を付けた。
「どうした?」
一瞬動きが不自然になった良守に気付き、限も上履きに履き変えながら良守にきく。良守は何でもないと笑いながら首を振る。
「たいした事ねえよ。…あ。俺今日日直だから、先行くな」
良守は限の横を摺り抜けるように素早く駆け出した。突然走り出した良守に限は驚いたが、良守の足が靴箱の簀の子から廊下に付くと違和感に気付いた。足音と一緒に、固い音が響く良守の後ろ姿を黙って見つめた。
 良守は限を無視するように真っ直ぐ廊下を駆け、自分の教室に飛び込んだ。
「いってぇーッ!神田ー、バンソーコちょーだい」
廊下から死角になる廊下側の席のユリの席まで良守は上履きを脱ぎながら顔をしかめる。
朝一番の言葉が挨拶でないことにユリはすでに慣れていたが、やはり慌てながらポケットの中から常に持ち歩いているバンソーコセットを取り出した。
「大丈夫墨村さん?」
席から立ち上がり、良守を座らせると、良守は顔をしかめながら上履きを脱ぐ。
「クッソー、いつも中に入れられてたから油断したぁッ」
脱いだ上履きをひっくり返すと、靴底に無数の画鋲が突き刺さっていた。新品の針が鋭い画鋲が明らかに故意に刺されているのを見て、ユリは顔を青ざめさせた。
「あわわ、こ、今回すごいねッ」
「あーもうッ!文句あんなら俺に直接言えっての。陰気な奴らだ」
上履きから画鋲を抜き去り、靴下を脱いで足の裏を見ると画鋲の先が刺さった痕が赤く腫れていた。血が出るような傷ではないが、痛々しいのには変わりない。特に酷い痕にユリは慌ててバンソーコを張り付け、ずれないのを確認する。
 「…相談とかした方がいいよ、段々酷くなってるし」
最近もはや朝の恒例になってしまった光景にユリは心配そうに言うが、良守は靴を履きながら首を横に振る。
「こんな事で心配かけたくないんだ。別にこんなの、夜に比べたらたいした事ないし」
最後はおちゃらけるように笑いながら小声で言うと、ユリはやはり心配そうに言う。
「でも、痛いでしょ?墨村さんが痛い思いした方があの志々尾って人心配するんじゃない?」
ユリの問いに良守は顔を俯かせた。確かにその通りなのだが、この画鋲の原因が良守と限が付き合っているからだと知れたら限は傷付いてしまう。そう思うと相談も出来ず、限に気付かれないように朝、靴箱の嫌がらせを無くすしか出来なかった。昨日までは上履きの中にそのまま入れられていたのだが、今日から靴底に仕込まれてしまい油断してしまった。
 放課後に良守の上履きに画鋲が仕込まれたなら夜に取り去る事もしていたのだが、どうも犯人達は朝早くに仕込むように手段を変えてしまい、結局限と一緒に登校してきた時でないとそれらを取り去る事が出来なくなってしまった。
 どうしたものかと、良守が深々とため息を吐くすぐ横の廊下の壁向こうで、壁から背を離し教室に向かう限がいた事に良守は気付かなかった。


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