♪Story♪

□青春時代
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 高等部に入学してから早二ヶ月。高校といっても中学の頃から通い慣れている学校の敷地内であるのには変わらず、目新しい物は何もない。
 高等部だと授業に出なくては出席日数が足りず進学出来ないが、良守は式神を使って身代わりを置いて中学の時から変わらないサボりスポットの屋上に昇った。
 誰も屋上に居ないことを確認し、スカートを気にせず給水塔の梯子を音を立てながら昇ると、やはりそこには先客がいた。
 高等部に上がってから同じクラスになった二人がいた。
 限は早々に既に寝転んで目を閉じており、閃は暇そうに座ってぼんやりと空を見上げていたが、良守が梯子を登って来た事に気がついて呆れたように声をかけてきた。
「おっせーよ。購買どれだけ遠いんだよ」
「うっさいなぁ。三時間目後の休み時間だぞ。男子で群れてて中々カウンターまで進めないんだよ」
「じゃんけんで負けた奴が食い物買いに行くって言ったのはお前だ」
ぷくっと頬を子供のように膨らます良守を閃は呆れたように見つめながらため息を吐く。
 良守は二人の近くに腰を下ろすて、がさがさとビニール袋に詰め込んだ菓子パンやらスナック菓子やらを取り出し並べていく。
「…甘いのばかりだな」
「いいじゃん別に。影宮は平気だろ甘いの。限のはちゃんと別に買ってきたから大丈夫だ」
良守は閃の呟きに答えながらまた別に別けていた袋からヤキソバパンやサンドウィッチを取り出し、横になっている限に目を向けた。
「限ー。食い物買ってきたぞ。食べてから寝ろよ」
ガサガサとパンの入った小袋を振りながら良守は限に声をかけるが、限はぴくりとも動かない。
怪訝に思い限の顔を覗き込むと、珍しい事に限は深い眠りに落ちていた。
 緩やかに瞼を閉じた顔は普段と違って柔らかな表情で、少しあどけない感じがする。
耳を立てると、微かにくぅと寝息まで聞こえていた。
「…めっずらしー。限マジ寝だ」
「さっきからコレだぞ。最近烏森以外にも夜行の任務も飛び回ってるからな、流石に限でも疲れてんだろ」
しげしげと限の寝顔を見つめる良守に、閃は菓子パンの袋を開けながら言う。
「そっかぁ」
良守は閃の言葉に生返事を返し、限の頬を指で軽く突いた。
 普段なら指が近づいただけで起きるのだが、指でぷにぷにと頬を触っても目が覚める気配もない。
 「…うわ。起きねーや。影宮、お前まさか限に眠り薬でも仕込んだ?」
「するわけねーだろ。いくら諜報班でもしねーし。だいいち、妖混じりにちゃっちい眠り薬効くわけねーだろ」
半眼で答える閃に妙に納得し、良守は再び限の顔を覗き込んだ。
 ここまで深い眠りは良守でも見た事が無かった。
 不意に、ムクムクと悪戯心が良守に沸き上がり、ニンマリと笑った。
「なぁ影宮。ちょい耳貸せよ」
「あ?」
ちょいちょいと手招きする良守に耳を近づけると、良守はごにょごにょと閃に耳打ちをする。
 最初こそ閃は嫌そうな表情を浮かべるが、良守が説得するようにまた耳打ちする。
 乗り気では無かったが、やはりそこは遊びたい盛りの高校一年生と云う事か、最終的には閃もニマニマしながら頷いた。
 良守はきらりと目を輝かせると、ポケットからそれを取り出した。


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