♪2nd Story♪

□やさしいやくそく
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 暖かな陽射しが降り注ぐ昼下がり。家事も全て終えて良守はのんびりと縁側に足を伸ばして寛いでいた。
今、家には良守と子供達しかいない。他の面々はそれぞれ私用で家を空けている。
子供達は子供達で今はお昼寝の時間で和室にお昼寝マットを敷き、タオルケットをかけて静かに眠っているはずだ。
 久しぶりにゆっくりとした時間を過ごせると、良守は午前中に子供達の三時のおやつ用に作っていたお菓子を少しだけ切り分け、それとお茶を持って体をググッと伸ばした。
「ん〜…ッ、良い天気だなぁッ。ぽかぽかぁ」
体を伸ばし切り、ぽふりとお菓子を口に含む。今日のおやつは末っ子の快のリクエストのキャラメル風味の甘いシフォンケーキだ。
 甘い香りが広がり、良守は幸せそうに微笑みを浮かべてもう一度それを頬張る。溶けていくように口の中に優しい甘さを広げていく自作のケーキに満足気に笑みを浮かべる。
その時、和室の方から物音が響き渡ってきた。
 「まぁまッ!ぉやちゅーっ!」
ドタドタと駆け寄ってくる足音と舌足らずな叫び声に、良守は苦笑を浮かべる。
流石に好物の甘い物の匂いには眠っていても敏感に察知するらしい。
 和室に続く廊下を振り返ると、キラキラとした満面の笑みを浮かべて快が良守に向かって駆け寄って来ている。
「かーい。そんなに走るなって。誠も起きちゃうだろ?」
「にぃにまだおっきしなー。ね。かいもおやちゅ。かいも、かいもーッ」
「はいはい、ちょっと待てって」
纏わり付いてくる快を宥めながら縁側から立ち上がろうとすると、また和室の方からタタタッと駆けてくる足音が響いた。
またそちらを向くと、慌てたように駆けてくる誠が姿を現した。
 「かい、だめッ。かーしゃまだおやすみなのッ」
「ややーッ、おやちゅッ」
「だめッ、とーしゃとやくそくしたでしょ?せーたちがおひるねの時かんはかーしゃがおやすみしている時かんだから、おきてもねたフリしろって」
「……う」
弟の肩に手を置いて、真面目に話す誠の言葉に良守はプッと吹き出してしまう。
良守の前で、どうやら父子の秘密の約束というものを話すなんて、やはりまだ幼い子供だ。
 誠の言葉に、母親が大好きな快も小さく頷く。誠は満面の笑みを浮かべ、良守を見上げた。
「かーしゃ。せーたち、まだおひるねちゅーだから、おやすみなさい。おやつの時かんになったらおこしにきてね」
「ぷッ、ふふ……。うん、わかった。三時になったら起こしに行くな」
「あいッ!おねがい。かい、せーともう一回おひるねね」
「…う」
 手を繋いでトテトテと和室に戻っていく子供達を見送り、良守は柔らかな微笑みを浮かべる。
 ゆっくりと立ち上がると、もう一度台所に向かって戸棚から子供用の小皿を取り出す。
シフォンケーキをそれぞれ切り分け、子供用のマグカップにジュースも注いでそれらをお盆に乗せる。
 零さないようにゆっくりとそれらを和室に持っていくと、障子の向こうから子供達の起きている気配がして、またクスクスと笑ってしまう。
 母親想いな子供達と、自分を気遣ってくれるさりげない夫の優しさを嬉しく思いながら、良守はお盆を和室の出入口の前に置いた。
 夫にそっくりな子供達なら、障子の向こうから香る甘いお菓子の匂いに気付いてすぐに『お昼寝』しながら、まだ早い三時のおやつにありつけるだろうと思いながら。


End
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