♪2nd Story♪

□彼にとっての激務
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 髪の毛うざい。と、突然良守は首筋の髪を掻き上げた。
言動は女らしさが少ない彼女だが、元々短めの髪を掻き上げ見えたうなじはやはり女らしい特有の白さと細さ。
 真っ黒な髪はそんなうなじの色っぽさを際立たせ、思わず限はドキリと胸を高鳴らせた。
 「うぁ〜……、チクチクして気になるッ」
毛先が首筋に当たる感触が気になるらしく、良守は髪を上に掻き上げたうんざりしたように呟く。
 確かに良守にしては髪の毛は伸びたのかもしれなかったが、それでも彼女の髪は短い部類に入る。毛先は首筋を隠してはいるが、肩には当たってはいない。
 「…切りに行けばどうだ?」
そんなに気になるなら早く美容院にでも行けば良い。
それとも、彼女の事だから、もしかしたら家族想いの父親に髪を切ってもらっているのかもしれない。
 いつまでも髪を気にするよりはそうする方が良いと、限は思い言ったが、良守はうーん、と小さく唸った。
「今月あまりお小遣に余裕ないんだよなぁ…。あ、限切ってよ」
 閃いたとばかりに良守はニッコリ笑うと、驚いている限を尻目に、勝手に限の部屋のペン入れからハサミを取り出した。
それを限に手渡し、良守はパタパタと洗面所に向かいハンドタオルとバスタオルを一枚ずつ持って戻ってくる。
 限に背を向けて座ると、髪を外に出しながら首にハンドタオルを巻き、身体を覆うようにバスタオルを巻き付けた。
 「んと、毛先三センチくらい切ってくれたらいいからさ」
「…や、やった事、ねえ」
「うん、なんとなくわかる。でも平気だって」
ニコニコ笑いながら、信頼しきっているように良守は前を見据えた。
 人の髪を弄る事も、ましてや切った事なんてない限は手に握らされたハサミを見て固まる。
 しかし、良守は微笑みを浮かべたまま前を見据え、髪にハサミが入るのを待っている。
どんなに自分には出来そうにないと断っても、良守はこの姿勢のまま待ち続けるだろう。それだけ頑固だと、いい加減わかってきていた。
 一つ息を吐きだし、意を決して限は良守の髪を一束摘むと、緊張した面持ちで少しずつ髪にハサミを入れていった。


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