♪2nd Story♪

□めったにないたいせつなもの
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 それを見つけたのはほんの偶然。
いつもならキチンと仕舞われているそれらが部屋の隅に畳まれていた。
洗濯物の脇に畳まれていた事から、おそらく洗濯をして、畳んでいる途中でそこから作業をしていた人間が離れたのだろうと推測はできた。
 おもちゃを取りに来た二人は、普段滅多に見れないそれらに目を輝かせ躊躇い無く手を伸ばした。
紫紺色のそれと、濃紺色のそれ。他の対になる小道具もあったが、二人が手にしたのは主たる部分。
 紫紺色の物はずっしりと重く、折目が厚く生地が少し固い。濃紺色の物は折目がきめ細かく軽く柔らかい。
手に馴染ませるかのように二人はそれらに触れ、細かな部分にも視線を動かした。
どちらも軽く痛みが見られるが、綺麗に直されている。
中央にはそれぞれ独特の紋様が描かれ、地味な色合いながらもそれが浮きだって美しい。
 我慢出来なくなって、二人はそれで体をすっぽりと包み込む。
どちらもまだ幼い二人には大きすぎて、ずるずると引きずってしまう。
それでも頑張って誠は紫紺色のそれを被る。何とか頭は出したが、衿が大きすぎてそこから両肩がすとんと飛び出している。
生地を寄せて肩口から手を出してみても袖無しの物なのに誠の短い手では十分袖になってしまった。
快も濃紺色の物を羽織るが、袖の長いそれに手を入れる事が出来ず、頭からすっぽりとまるで頭巾の様に被っている。
衿が開いていて快の体は丸見えだが、快は嬉しそうにふくふくと笑ってそれを引き寄せた。
 「おっきーね、かい」
「う。ぉっきー。でも、まぁまのにぉーするッ」
「こっちとーしゃのにおいするよ」
「いぃにぉーッ。ね、にぃに」
「あい、おちつくね」
「うッ!」
 二人が寝てしまう深夜に着る装束を身に纏い、二人は嬉しそうに笑った。
これらを両親が着ているのを二人は数える程しか見ていない。
父親の紫紺色の装束は仕事に着る戦闘装束なので、よく破けたり血がついたりするので夜行の屋敷に置きっぱなしにする事が多く、滅多に目にする事はない。
母親の濃紺色の装束も仕事の服なので、烏森が封印された現在は何か大切な結界師としての行事か、二人の父親の手伝いに行く時くらいしか着る事はなく普段はキチンと箪笥の置くに仕舞われていた。
 二人は滅多に見れないそれを身に纏っている両親を見るのが大好きだった。
普段と違う、何か特別な両親に見えたのだ。
そんな大好きな服が目の前にあって、二人はそれぞれ身に纏う。
自分達も両親と同じ、何か特別な姿になっている気がする。
 キリリとした、引き締まった空気を纏い、凜とした面持ちで真っ直ぐ前を見つめているあの姿。
 二人はその姿を思い出し、それぞれ装束を引き寄せてまた笑いあった。
 大切な装束をたまには綺麗に手洗いし、糊を効かせシワのならないように畳んでいた装束をしわくちゃにしながら身に纏って遊んでいた我が子達を両親が苦笑しながら叱る数十分前のお話。


END
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