永遠を貴方と
□二十四話
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「だって帰るなんて」
鬼宿の部屋の近くまで来たとき、そんな声が聞こえて柳宿と顔を見合わせた。
「美朱?」
そのまま急ぐように部屋を覗くと、キョロキョロと挙動不審な美朱がいて。
美朱は私の声に振り返るとハッと何かに気付いたかのように私を見た。
「月奈ちゃん…!」
わけがわからぬまま、美朱はシュルッとリボンを髪から解くと私にそれを向けた。
「美朱?」
差し出されたリボンと美朱を交互に見る。
「今、お兄ちゃんから連絡が…」
「!」
それだけ言ったのを聞いて、素早くリボンを掴む。
「奎介さん?!」
見えない相手へと声をかけると、頭に直接響くように聞こえたその声。
《月奈ちゃんか?!頼む!君なら分かってくれるだろう?!美朱を連れてこっちに帰って来てくれ!》
「――ッッ?!そんな急に…何かあったんですか?」
動揺を隠すように息を飲んでからゆっくりと聞いた。
《もしオレの考えが正しければ…君達はもっと酷い目に――もしかしたら美朱と唯ちゃんはヘタすると殺されるかもしれない!》
その言葉にドクンッと心臓が大きく跳ねた。
そうしてグラリと崩れる私の身体。
「月奈ちゃん!」
「月奈?!」
床にへたりこんだ私の身体を柳宿が後ろから支えてくれて、左手は離してはいけないとどこかで思っていたからか、強くリボンを握り締めたままだった。
「月奈ちゃんは…帰りたい…?」
その言葉にビクッと肩が跳ねて、バッと美朱に顔を向ける。
今、自分がどんな顔をしているのかわからなかったけど、柳宿が私の肩を掴む手に力が入ったのに気付いて泣きたくなった。
キュッと唇を噛んでフルフルと首を横に振る。
すると美朱は少しだけ笑った。
「翼宿!このリボン燃やして!」
美朱は私の手からリボンを取ると翼宿に向けた。
「早く!」
美朱にせかかれて、翼宿は戸惑いながらもハリセンを手に取る。
「――烈火、神焔!!」
勢いよく燃えたリボンはチリも残さずに消えた。
それを見て、どうしてか…どうしようもなく胸がざわめく。
“殺される”
その言葉が痛いくらい胸を締め付けた。
「美朱、月奈…お前ら元の世界と…」
「…いいの!あたしはどこにも行かない!みんなと一緒に戦うよ!」
笑顔を向ける美朱の顔が一瞬だけ雲って、私がそれに気付いて声をかけるより先にズズ―ンと舟が大きく揺れた。
「申し上げます!先程からすごい嵐に巻き込まれ…雷の直撃を受けました!!」
「なに?!」
バタバタとみんな外へと走り出す中で柳宿はゆっくり私を立たせた。
「……よかったの?」
弱々しく聞こえたその声に顔を上げると、声とは裏腹に柳宿は私を強い瞳で真っ直ぐ見ていた。
それにフッと笑う。
愚問だよ、と思って。
「私はもう、ずっと前から決めてたよ」
貴方の傍に居る為ならどんなことでもするって。
そう言って柳宿の手を握ると、そのまま手を引かれて抱きしめられた。
「ありがとう」
私を抱きしめながらそう言った柳宿にそっと腕を回す。
私が失うとしたら、もう柳宿と…ここにいる仲間達だけだから。
15年間過ごした世界をかけてもいいと思うのは間違ってないよね?
そう、誰に聞くでもなく口に出さずに胸の中で問いかけた。