永遠を貴方と
□二十四話
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「これで大丈夫だ」
クルクルと器用に巻かれた白い包帯に目をやりながら「ありがとう」と微笑む。
そうしてさっきからベッドでウンウン唸っている翼宿を見て「あれ、なんとかならないの?」と軫宿を見上げると「ならん」と、再びバッサリと切り捨てる軫宿に少し苦笑した。
「あっさり見捨てよって!軫宿!お前も陸上がったら覚えとれよ!」
寝転びながらギャンギャン喚く翼宿に、軫宿は深く息を吐きながら「それだけ喋れるなら大丈夫だ」と呆れたように言った。
それにまた苦笑しながら、翼宿の傍に寄って包帯が巻かれていない左手をピタリと翼宿の目の上に乗せる。
「どわ!ななな…何や?!」
焦る翼宿にクスクス笑いながら「気持ち良くない?」と尋ねると「………あ、」と、切れの悪い返事が聞こえた。
「目と首の後ろ、冷やせば少しはスッキリするはずだから」
小さい頃によく車に酔っていたとき、お母さんがそうしてくれたのを思い出した。
こんなとき、少し冷たい自分の手でよかったと思った。
「……翼宿、熱ある?何か熱いよ?」
「おッお前の手ぇが冷たいだけやろ!」
焦ったように聞こえた翼宿の声に首を捻りながら、赤くなった頬と耳に気付き、「やっぱり熱あるよ!タオル冷やしてくるね!」と、まだ柳宿が居るであろう厨房へとパタパタと走った。
「ちょお待て!熱なんかあらへん……て、行ってもた…」
ガバッと起き上がり、叫ぶが既に足音は遠く、伸ばした手は宙を切った。
「…クッ」
そうして足音が遠ざかった後、耐え切れず笑いをこぼした軫宿を睨みつけ、翼宿は未だ赤いままの自分の耳を隠すようにガバッとシーツを被って再び横になった。
「あれ?張宿?」
私の前を急ぐように横切った張宿に声をかけると、張宿は私を振り返った。
「あ、月奈さん」
急いで走っていた為か、少し息を上げる張宿に「どうしたの?」と尋ねる。
「何か美朱さんの様子がおかしいとかで…」
「美朱の様子が?」
いつもおかしいよあの子は、と思ったがピュアなこの少年の瞳を前に言葉を飲み込んだ。
「美朱どこにいるの?」
連れて行って貰おうと張宿の手を取ると張宿はピクッと手を震わせた。
「え?あの…」
私の顔と繋がれた手を交互に見る張宿に「ん?」と首を傾ける。
「…いえ、なんでもありません」
少し恥ずかしそうに笑いながら張宿は「こっちです」と私の手を引いた。
「あれ?柳宿、」
張宿に引かれた先に真っ直ぐこっちに歩いてくる柳宿が居た。
「月奈!手は?!」
真っ直ぐこっちに向かってくるってことは、軫宿の部屋に居るはずの私を迎えに来てくれたんだろうと思うが、顔を見て早々に“手”と言われ、笑ってしまった。
「大丈夫だよー」と、張宿と繋いだままの左手をそのままに、右手をヒラヒラと振る。
まぁ、そうしてみても、痛々しく巻かれた白い包帯に柳宿は顔をしかめただけだったけど。
「まったく…気をつけなさいよ…」
そう言って、今気付いたように一点を見つめる柳宿の視線をたどる。
一点…。
そう、張宿と繋がれた私の手。
まさか張宿にまで嫉妬してる…?と思ったら、張宿と目が合って彼は困ったように私に笑みを向けた。
本当に頭のいい子だ。
そう思って、既に緩んでいる張宿の手をスルリと抜けて、そのまま柳宿の手を取る。
「美朱は?」
尋ねると柳宿は私の手を握り返して「鬼宿の部屋だと思うわ。さっき料理を運んで行ったから」と私を見た。
「えっと…あ、僕、井宿さんにも知らせて来ますね」
そう言ってパタパタと甲板へと走って行く張宿の背中を見送ってから、ゆっくりと柳宿を見上げた。
「……なによ」
私の言いたい事が分かっているんだろう。
彼は幾分罰が悪そうにチラリと私を見て、視線を外した。
「別にぃ」
分かってるならいいやと思って鬼宿の部屋へと足を向ける。
が、クイッと腕を引かれた感じに振り返った。
振り向くと引かれたんじゃなくて、立ち止まったままの柳宿がいて、
「悪かったわよ」
少し赤くなって謝ってくる柳宿がおかしくってケラケラ笑いながら「うん」と言っておいた。