永遠を貴方と

□二十三話
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〜〜〜〜♪

突然聞こえたその音色に、ハッと驚いて上がったままの肩が固まった。

笛……の音…?

それは紛れも無く笛の音色。

浮かんだ顔はただひとり。

でもそんなはずない。

「この音色…、」

みんな脳裏によぎった人物は同じだったみたい。

まさか…という困惑した顔。

「…まさか!!あの子は…亢宿は河に落ちて確かに…」

「でもこの笛の音は確かにそうよ!」

同じ音色

同じ曲

でも、どうしても彼だとは思えなかった。

優しいあの人はこんなこと出来っこないって思っているから。

…ううん、願っているのかも。

あの日私に向けてくれた笑顔だけは真実だと。

紛れも無く、優しさで満ちていたと。

「でも変だ、彼の笛は月奈ちゃんが…」

美朱と目が合って、自然と亢宿の笛が入っている場所に手を当てる。

ある。

確かに、ここに…。

コクン、と美朱に頷くと、美朱はバッと外へ飛び出した。

それに続いて私達も外へ出る。

そうして、地面に映った人影にバッと振り向くと、

見上げた目に映ったその姿に口を開くが、ただポカリと開いた口からは何も声が出ることはなかった。

同じ曲

同じ音色

そして血を浴びたその姿。

…同じ姿。

なにもかも亢宿と同じその人。

「亢…宿?!あなた生きてたの――ッ?!」

美朱の声にピタリと笛を止めて私達を見下ろしたその瞳はただただ冷たかった。

その瞳だけで違う、と思う。

「…あなたは誰?」

ただの直感と少しの期待。

彼でなければいい…と思って。

私の言葉にその人はニッと口角を上げて私を見た。

「その血…、あなたが殺したの…?」

私を見下ろしたままハッと鼻で笑う。

「そうだよ、オレが殺してやったんだ。
これは復讐さ」

その言葉を届けるようにブワッと強く風がふいた。

「お前達に殺された兄キへの弔いだ!!」

纏っていた血にまみれたマントが風に飛んでも、彼から目が離せなかった。

憎しみ

憎悪

あぁ…、

昔、私もこんな目をしていた。

許せなくて、泣いて…泣いて、泣きわめいて…

悲しみはいつしか憎しみに変わる。

そうしないと、どうしていいかわからなくなるから。

誰かを憎んでいないと…辛くて壊れてしまいそうになるから。

「“兄キ”――?!」

私をまっすぐ見下ろしたままのその人の視線を遮るように柳宿が私の前に立った。

「オレは青龍七星士の角宿!
お前達が殺した亢宿の双子の弟だ!!」

「双子?!」

「ちょっとあんた!!なんっか誤解してるわよ!
別にあたし達が殺したんじゃなくあれは不幸な事故だったの!!わかる?!」

事故…、

わかってる…

わかってる…けど、

「ヘタな言い訳なんざ聞く耳持たねぇぜ!」

「んもー!人の話聞かないコってやッッ!!」

ヒュンヒュンと鞠のようなものが付いた紐を回しながら角宿は私達を睨みつける。

「ついでにてめぇらも殺してやる!!」

「!」

ドカッ

襲ってきた角宿の武器を柳宿は私を、鬼宿は美朱を抱き上げてそれを避けた。

ズウゥゥンッ

木に当たったそれは、意図もたやすく真っ二つに木を貫いた。

「…そいつで…殺したのか…」

震える声で地を這うようにジワリと広がったその声にハッと鬼宿を見る。

「そいつでオレの親父や弟や妹達を貫いたのか!!」

「オレは家族のお返しをしたまでだ。
たった1人の家族の…オレの半身のな!!」

もう一度、今度は鬼宿に向かってそれは飛んだ。

「―――ッ!」

ダメ…

彼と戦っちゃ…

殺して…、殺されて…

そうしてまた殺して…

いつ憎しみが絶えるの…?

いつ…悲しい世界はなくなるの…?

「3人とも手ぇ出すな!!」

鬼宿は美朱を離して私達の方へと突き飛ばす。

柳宿は美朱が鬼宿の元へと駆け寄るのを押さえる為に私を離した。

私は地面にへたりこんだままギュッと手を握りしめた。

悔しい…

やめて…なんて私には言えない…。

悲しみを忘れる方法なんて…許す方法なんて…私は知らないもの…。

鬼宿が傷付くのを

美朱が泣くのを

柳宿が辛そうにそれを止めるのを

ただただ見つめながらボロボロと涙がこぼれた。

――私はなんの為にここにいるの――

この人達を…護りたいと願ったからなのに…。

――ッ何も出来ない…。


「月奈ならきっと出来るわ」


「え――?」

聞こえた声に辺りを見渡すが、どこにも誰の姿もなかった。

誰の声かわからないのに

優しい…と感じるその声に、涙が止まった。

そう…だ、

“貴女”のようになりたかったの。

強くて、まっすぐで、いつだって諦めない。

そんな気高い心を持っていた“貴女”に――。
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