永遠を貴方と

□二十四話
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「あのー…柳宿様、お料理なら私共が致しますが…」

そんな侍女の困ったような声と、包丁の音。

「いーじゃないのぉ、たまには!あたし料理得意なのよ!」

そこらへんの女の子より女らしい自分の彼氏にちょっぴり嫉妬してしまう。

「月奈と美朱も手伝ってくれてるし!そっちの煮込みはどうなってる?」

「うん、美味しかった」

「あ…ι」

「全部食べちゃってどーすんのよバカーーッッ!」

大鍋の煮物をペロリと平らげた美朱にしまった…と思う。

そうだ…美朱ってば調理実習でもつまみ食いしまくってたんだった…。

挙げ句の果てには美朱の面倒を見るために私と唯ちゃんは強制的にいつも同じ班。

「ごめん柳宿、うっかりしてたι」

「だって味見しろって言うから…」

ぶーっと文句をたれる美朱の頭をペシッと叩く。

「それだけ食べて味見なんて言いません!」

「まったく、心のこもった手料理で鬼宿を元気づけてやるんじゃなかったの?!」

「だってー…、あたしクッキーしか作ったことないし。
それだって成功したの10回に1回くらいだったしー」

調理実習は私と唯ちゃんがほとんどやってたしね…。

喧嘩してる美朱と柳宿を無視して美朱が食べてしまった煮物の変わりを作る。

「なーにあんたそれじゃあ包子1つ作れないわけ?!情けないわねぇ“女のくせに”」

「なーに、たかだか料理出来るからってエラソーにして“オカマのくせに”」

「「……………」」

トントンと手際よく包丁の音が響く中でゴーンッとゴングの音がなった気がした。

「キーッ!!許せないその差別!!」

「何よー!!どうせ不器用だよー!!」

「…………」

無視を決め込んだものの、うるさすぎる2人。

バンッ

そこに入ってきたのはこれまたうるさい男……もとい翼宿。

「む…胸がスッキリするもん…ないかぁ〜〜ッッ!!」

…うるさいと思っていた男は弱り切っていたみたい。

「…あんたまさか舟酔いしてんの…?」

フラフラと真っ青な顔してウッと口を押さえながら、どこから出したのか『当たり』と札を私達に向ける翼宿。

それを見て柳宿は心底バカにしたように大笑いした。

「ぎゃはははは!山賊の頭になるよーな男が“舟酔い”!!」

「柳宿…お前陸に上がったら殺したる…」

「ちょっと柳宿!ι…あ、軫宿!」

ちょうど通りかかった軫宿に声をかけると、軫宿は足を止めてこちらを振り向いた。

「ちょうどよかった。
あのね、翼宿が舟酔いしたみたいで…酔い止めない?」

そもそも、こちらの世界の医療がどこまで発達しているのか知らなくて、酔い止め…なんてあるのか分からずに軫宿に尋ねる。

「酔い止め?ない」

すると軫宿はチラリと翼宿を見て、無情にもザックリと言い放った。

それにガーンとショックを受ける翼宿は、最後の頼みのつなが切れたためか、先程よりも顔を真っ青にして「あかん…吐く」とうずくまる。

「ぎゃ――ッッ!!こんなとこで吐くな――ッッ!!料理との区別がつかなくなるじゃない!!」

「汚いこと言わないでよバカ――ッッ!!」

ぎゃあぎゃあバタバタと暴れ出す柳宿と美朱。

「ちょ、ちょっと!こんなとこで暴れたら危な…」

危ない、と声をかけかけて、ヒラリと美朱のリボンが髪から離れたのを見てとっさにそれを掴む。

「あッ……つぅ…!」

本当にとっさ。

目の前にあったのが火だ、と気付いたときには掴んだリボンの柔らかさと、熱さと痛み。

「月奈!!」

ちょっぴり焦げてしまったリボンと、赤くなった私の手。

ヒリヒリと痛む手を片方の手で押さえたら、ピリッと痛みが走ってまた顔をしかめた。

「何ボサッとしてんの!!」

柳宿は私の火傷した方の腕を荒々しく掴むと、水を溜めたそこにバシャッとつけた。

水の冷たさに一瞬強張ったが、ジンジンとした痛みが和らいでホッと息をつく。

「月奈ちゃん、大丈夫?!」

オロオロとした美朱に「大丈夫…はい、これ」と少し焦げてしまったリボンを差し出す。

それをホッとしたように「ありがとう」と受け取る美朱。

「まったく、大事な物でしょう?気をつけなよ?」

そのリボンが奎介さんと繋がっていると知ってたから。

「うん、ごめん…」

シュンと落ち込む美朱の頭をポンポンと叩いて「大丈夫だよ」と笑う。

「見せてみろ」

傍に寄ってきた軫宿に言われ、未だ柳宿に掴まれたままの手を向けた。

「これくらいなら大丈夫、薬貰えるかな?」

能力を使うまでもない、と告げると、軫宿は私がそう言うと分かっていたようにフッと笑って頷いた。
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