仮面小説

□‡canary‡
1ページ/2ページ

「ネオッ」

ふわふわと、触れてしまえば壊れるような。
危うくて、繊細で空っぽなガラス細工。
それがあいつ。

カナリヤみたいな高く細い声。
イヤに耳につく。
耳障りだ。

「ねぇっネオ」

「………何なんだよ…」

気に食わない。
横目であいつを追いながら、吐き捨てる。

「あのね…」

空っぽな愛玩動物に、どういうワケか仮面の指揮官は優しい。
余程人間兵器のメンテは大事らしい。
ご苦労様なこった。
騙されてるバカもそーとーマヌケだし。

アホらしいバカらしいみんな軋んで歪んで歪んでる。
この世界なんてこんなモン。

「わたしね、ずっとネオまってたの」

いつもいつもそのバカは、
その白い頬に朱を上らせて。
淡い桃色の唇を、普段動かさない分を取り返すように、せわしなく開閉させて。
見せたこともないような至上の笑顔で。

笑っていた。

心の底から。

あぁ気に食わない気に食わない気に食わない気に食わない。

断片的に聞こえてくる会話に、無意識に耳を傾けている自分が更に気に食わない。
塞ぎたい。
見たくない。
潰したい。

こんな感情は知らない。
あいつに対するコレが何なのかも。
ヤツに対するコレが何なのかも。
訳が分からない。

本来的にオレ達は只の人形のハズだし。

感情は要らない。
必要なのは享楽と快楽。
実存在に意味など無い。
意味を為すのは自動操縦の肉体。

無用の物は切り捨てろ。
見つけるな振り向くな気にするな見過ごせ。

それが例え、小さな小鳥だとしても。
弱い星の光だとしても。

この世界は虚無。
それが純粋動機。

「アホらし」

馬鹿げた思考に、ゆるいまばたきを一つ。
遮断。
思考すら無意味かつ無意義。

それでもオレは、何故かいつもあいつに声を掛ける。

「ネオが呼んでるぜ」

笑った顔が見たかったから。
矛盾。
訳が分からない。


...end
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ