*theme novel*
□髪をかきあげる仕草
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少し長い黒髪をかきあげる彼。
例えばレポートの採点が終わったときや本を読んでいる最中にごく自然に。
特に意識して見たことはなかったが彼の仕草ひとつひとつが丁寧で優雅なので、リーマスはいつの間にか目で追っていることがあった。
―――髪をかきあげる仕草
授業後、生徒からの質問に答え終わったリーマスに、女生徒の一人がおかしそうに言った。
「先生、最近よく髪をかきあげていらっしゃいますね」
ほら、という言葉に自分の手が髪に触れていることにたった今、気が付いた。
それに少しばかり驚いたリーマスは、咄嗟にある人物が思い浮かんできたことに更に驚いた。
黒髪をかきあげる彼の仕草が、頭の中でゆっくりと再生される。
「ちょっと伸びてきたからかな?そろそろ切り時かもね」
ちょっと長いくらいがお似合いですと言う生徒ににっこりと笑いかけながら、次の授業へ行くように促した。
自分もまた次の授業の準備をしなくてはならない。
リーマスは生徒を見送ってから教室に戻ろうと踵を返し、無意識に髪をかきあげようと手を伸ばした。
だが手は髪に触れる直前に停止して、リーマスは苦笑した。
「…癖がうつっちゃったかな」
それから意識してみると、自分の髪をかきあげる回数の多さに驚愕…とまではいかないが、しかしどうやら本格的に癖になってしまっているようだった。
ふとしたときに手が髪に伸びていて、あっ、と思ったときには髪は耳にかかっていることもある。
これでは生徒に指摘されてもおかしくはない。
しかしリーマスを悩ませているのはこの行為自体ではなく、その後にくるものだった。