*theme novel*
□憂える横顔
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ロンドン東部、移民が多く住むこの辺りはお世辞にも綺麗とは言い難い。
昼間から酒をかかえブツブツ呟く老人に脇目も振らず、黒髪の男性はさっと左右を確認すると赤信号の横断歩道を渡った。
夏だと言うのに長袖のシャツを着ているその男性は、カウンシルフラットの集落へ足を進めていく。
集落へ入ると先程通った暗い道とは違い、古びてはいるものの雰囲気は明るく、子供達が元気に走り回っていた。
その光景を見向きもせず、男性はひとつのドアを目指す。
ジョブセンターの向かいの棟、手前から三つ目の赤いドア。
ドア前の柵は彼の膝上くらいまでしかなく、開きっぱなしのまま草が青々と茂っていた。
ドアの目の前に来ると、男性は躊躇うことなくベルを鳴らした。
―――憂える横顔
ガチャリと開いたドアから顔を出したのは、少し長めの金髪が似合う体格の良い男性だった。
「…何かご用ですか?」
深く低く、しかし心地良く響いた声はオーストラリア訛りだった。
真夏に長袖?と言いたそうに怪訝な表情をしている。
「ホグワーツという学校の教職員です。リーマス・ルーピン氏を呼んでもらえますか」
自分の名は名乗らず、ホグワーツ魔法魔術学校の教職員、セブルス・スネイプは早口にそう言った。
訪問者が教職員と分かると彼はドアを開き、にこりと笑いセブルスを迎え入れた。
広くないエントランスには、ピカピカに手入れされている青い自転車が置いてある。
「どうぞ、リーマスから聞いています」
入ってすぐ右側にはキッチンがあり、その入口の隣に階段があった。
「呼んできますので座っていてください」
オーストラリア訛りの男性は正面のリビングルームへセブルスを案内し、二階へ姿を消した。
一階は共同スペースで、二階はプライベートルームなのだろう。
シェアリングは学生の間だけで充分だ、とセブルスは地下にある緑を基調とした部屋を頭の中から追いやった。