他校

□○straight 1P
1ページ/1ページ


 跡部の部屋を訪れた手塚は、いつものソファーでくつろいでいる。時折横目で見ては、男がここにいることに満足した。学校が違う恋人とはなかなか休みが合わない。ようやく手に入れた久しぶりの逢瀬だ。
 黙っていても気まずくはない。時折言葉を交わし、また沈黙する。元々饒舌ではない手塚だ。特に話さなくてもかまわない──ふたりでいるだけでいい。そんな午後。ゆったりと時間は流れる。
 馥郁とした紅茶の香りに頬をゆるませて。古いレコードに針を落とし音を楽しむ。
 視線を感じ顔を上げると、手塚は端正な面に薄い笑みを刷いている。思わず跳ねた鼓動を隠すように、跡部は軽口を叩いた。
「俺様に見惚れてんのかよ、アーン?」
 答えないまま、切れ長の眼を細める。ストイックなようでどこか色めいて見える、不思議な眼。
「…手塚?」
 跡部をじっと見ていた男は、不意に口を開いた。
「おまえは卑猥だな」
「……おい、今何て言った手塚ぁ」
 ドスのきいた声も気にせず、手塚は繰り返す。
「おまえは卑猥だと言ったんだ」
 平然とした顔でとんでもないことを言い放つ。言うに事欠いて卑猥だと。跡部は拳を握りしめた。
「貴様ぁ…」
「跡部? 何を怒っているんだ?」
「猥褻物扱いされて怒らねえ方がどうかしてるだろ」
「物扱いなどしていない」
 どこまでも噛み合わない。ピントはずれの答えを寄越した手塚には、婉曲した物言いは通じないのだ。
「卑猥とはどういう意味だよ」
「そのままの意味だ」
 小首を傾げた手塚は、心得たようにうなづいた。
「ああ、扇情的だと言った方が良かったのだな」
「てめえ…」
「これも気に入らないか。では、性的に煽られるならいいのか」
「てめ…何が言いてえ」
「何…と言われてもな。言葉通りなんだが」
 真面目を絵に描いたような男だが、時折驚かされる。こんな奴だと分かるまではその発言の真意を量れずに悩んだこともあった。
「言いたいことがあるなら、はっきり言いやがれ」
「抱きしめてもいいか?」
 唐突な誘いに、力が抜ける。
「抱きしめるだけでいいのかよ、アーン?」
「それだけでは済まないな。触りたいし、おまえの中に入りたい」
 抱き合った時の熱さを思い出した跡部は、ゆるい笑みを浮かべた。
「…駄目だって言ったらどうすんだよ」
「仕方がない」
「…よく分からねえ奴だな」
 簡単に諦めんなよ。囁きながら、ソファにもたれた男の膝に乗り上げる。
「ふん…性的に煽られてんだろ」
「そうだ」
 少し顔を傾けながら口づける。眼鏡が邪魔だ。ブリッジに手をかけ外すと、端正な面があらわになる。
「…いいのか」
「煽られてんだろ…鎮めてやるぜ」
 俺様の美技に酔いな。囁きに手塚は少し笑った。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ