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□浮気のボーダーラインを上げろ!
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「いつまでむくれてるんだよ」
膝を抱えて、仏頂面で部屋の隅に座っている六道の背中に言葉を投げる。
同じ空間にいると嫌でも目につくのが鬱陶しい。リビングから寝室(と言っても着替えやら、デスクやらもある学習スペースでもある)に移ろうかと思ったが、ここからいなくなったらいなくなったで、余計不機嫌になるので、それも避けたいところだ。
「おい、六道」
「ひどいよ、日向くん」
そんな恨めしい目で見られても……思わず頭を掻いた。
「あのなぁ、合コン行ったぐらいでそんな」
「ぐらいって、立派な浮気だよ!?」
どこの堅物だお前は。合コンが浮気って。女の子と二人で出掛けるのはダメ、冗談でも手をつないだり、肩を抱くなとうるさいので、いたしかたなくそれはやめた。AVも浮気だっつーから、それっぽいシーンがある、万人向けのビデオしか見ていない。
これだけ我慢してるってのに、合コンにも行くな? さすがに我慢の限界だ。一応、気をつかって、彼女(女じゃないけど)はいるって、公言して参加してるってのに。
そもそも合コンって一種の飲み会だろうが。恋人探ししようと思ってないならなおさらだ。
って、全部声に出してたら、信じられないものをみるような目で見られた。
信じられないのは俺のほうだ。現代社会の感覚に浸透してくれ。そんなことじゃモテないぞ。……いや、こいつモテまくってるけど。ムカつくほどに。あ、恋人としての嫉妬じゃなくて、男として羨ましいって意味だからな。それぐらいのことで嫉妬なんかしないし。
「日向くんって最低だね。世間がこうだからって、浮気を肯定するんだ」
「してないだろ。気持ちが動いて初めて浮気じゃないのか? ま、気持ちが伴わなくても肉体関係持ったら浮気ってのは、まだ頷けるけど」
「もうそれは浮気とかじゃなくて、人として最低だよ」
「はいはいそうですか。つーかお前、本当に男か? 女々しいことばかり言ってないで、もうちょっと寛容になれよ。合コンとAVぐらい許せ」
……言った後でヤバイと思った。まさか泣きだしそうになるとは。頼むから泣くな。さすがに、泣かれると心が痛む。他の男ならどうってことないけど、一応、俺はコイツに惚れてるわけだし。じゃなきゃ、誰が男と関係なんて持つか。一緒に住んだりもしない。そもそも、部屋に招き入れた恋人は六道が初めてだ。
「……分かった」
しばらくの沈黙をやぶったのは六道のほうだった。分かったってなんだ、ここまで感覚が違うなら別れるしかないとか言い出すんだろうか。面倒くさい。面倒くさいけど、じゃあ別れるかと頷くことは出来ない。
「いいよ。ビデオ見ても。合コンも行けばいい。そのかわり、次の日は俺に付き合って」
「はぁ……いいけど」
まさかそんなこと言われるとは思わなかった。拍子抜けだ。
「付き合うのはいいけど、なにすんの?」
「一緒にご飯食べに行ったり、ソファに並んで座ってテレビ見るとか、かなぁ」
そんな普通のことでいいとは。これまた拍子抜けだ。でも、そうかもしれないな。ベタベタするの好きじゃないから、俺。こいつはずっと、そういう普通のカップルみたいなことを、したかったのかもしれない。ちょっとしたことで浮気浮気騒ぐのも、寂しいからなのかもな。
「……じゃあ、行くか」
「行くってどこに」
「ビデオ屋」
「えっ、さっそくエッチなビデオ借りに行こうとしているの!?」
驚いた六道の頭をこずく。さすがの俺も、そこまで神経図太くない。
「みたかった映画のDVDがレンタル開始したっていってただろ」
「うん。そうだけど。……あれ? もしかして、それを借りに行くの!?」
「そういうこと。ついでにコンビニでお菓子でも買ってくか」
「そうだね! 買いに行こう!!」
ぱっと表情が明るくなる。ご主人様に褒めてもらった犬のようだ。図体ばかりでかくて、こういうところは子供なんだよなぁ。そういうところが好きなわけだが。
擦り寄ってくる六道のからだを、鬱陶しいと押し返して、一人笑った。