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□その好きはどっちの好き?
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「日向くん」

「なんだよ?」


呼ばれて振り向いたが、そこに六道はいなかった。気のせいかと思いつつ、視線を下げたら――いた。なんで正座してんだコイツ。


「日向くんは俺のこと好きだよね?」

「え、なに訊いてんの? 気色わるっ」


ドラマとか、漫画とかでよくある「私のこと好き?」とニュアンスとか、雰囲気が違うのがせめてもの救いだ。


「気色悪いって、酷いなぁ。あ、で、どうなの?」

「まぁ、嫌いではねぇな」


嫌いだったら会話したくないし。どうしても必要な会話なら不機嫌面で対応だ。こいつのことは嫌いじゃない。一般的な常識がないぶん、手をやかせやがるので、たまにイラっとくるが、それだけだ。


「嫌いじゃないってことは好きでいいんだね」

「どちらか選択しろって言われたらな」

「じゃあさ、それってどっちの好き?」

「どっちって?」


またわけのわかんないこと訊いてきやがる。どっちってなんだよ、どっちって。好きか嫌いか、で話は終わりだろ。


「だからぁ、友達の好きなのか、恋人の好きなのか」

「……はい?」


空耳だろうか。うん、空耳だな。疲れてるんだ、俺。


「どっちなの?」

「いや、どっちって、男同士でなにその会話」

「だって、することしてるし。日向くん、俺以外の男とはしないでしょ?」


他の男? 考えただけで吐きそうになる。死んだ方がマシってレベル。六道は顔が綺麗だから、まだなんとかなる。
いや、なんとかって言っても、俺の方から手を出したんだけど。これが他の男なら、こうはならなかったな。……あ、れ?


「ねぇ、どっち――」

「ちょっと、黙ってろ」


ビシッと手をかざして、制止させる。もう片方の手で頭を抱えた。
まてまてまて、他の男ならこうはならない、ってのはイコールそれだけコイツの顔が綺麗だからであって、決して「コイツだから」ってことはない。


「なに悩んでるのー?」

「うるさい。邪魔するな。つーか、そんなことどっちでもいいだろ!」


そうだ。楽しめればいい。余計なことは考えないようにしよう。六道はしばらくむくれていたが、突然あっと声をあげて立ち上がった。輝かしい表情。


「アイラちゃんに面白いものみせてもらう約束してたんだ!」

「面白いものってなんだよ」

「答えてくれない日向くんには教えない」


そうかそうか。別にどうしても知りたいわけじゃないからいいけどね。
行ってくる、と言って、六道は部屋を飛び出した。無駄に元気だな。これでやっと、報告書の続きが作れるとパソコンに向きあったところで、再びドアが開いた。顔だけを覗かせた六道が、口を開く。


「俺は恋人のほうの好きだからね」

「……え? ちょっ、待て!」


引きとめる声も虚しく、六道は再びいなくなった。なんだアイツ。さらっととんでもないこと言いやがった。つーか、男が男を好きとか。否定するつもりはない。でも、自分が関わってるとなると気持ち悪い。……ハズ、なんだが。


「なんだこれ」


相手がアイツだと思うと別に気持ち悪くない。どころか、ちょっと嬉しいとすら思う。


「いやいやいや、落ち着け俺」


俺は別に鈍いわけじゃない。だからコレがどういうものなのかぐらいわかる。わかるけど、はいそーですかと認められるわけでもない。
――――考えないようにしよう。
それが一番だと、襲いくる頭痛と戦いながらキーボードを叩いた。
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