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□キス魔だから。
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「日向く〜ん」


酒の席でニコニコ近寄ってくるコイツに、あ、ヤバイと思った時はすでに遅くて、唇が触れ合った。ただ触れているだけの長いキスが終わると同時に、六道は眠りに落ちる。


「またかよ。ったく」


このままにしておいても邪魔なだけなので、隣室に敷かれた布団の上に放り投げる。幸せそうな顔しやがって。こっちは労力使ってんだぞ。


「え、え、いまのなに?」

「あれ? おまえ、知らなかったの?」


六道……ややこしいから黄葉が青ざめている。
ま、自分の兄貴のあんな姿見せられちゃあ、そうなるわな。普段の六道(名字表記が兄の方な)は、あんなんじゃないし。


「あいつ、酔うとキス魔になるんだよ」

「そうなんだ。一緒に飲んだの初めてだったから」


まだ受け入れきれないようだ。でも、あれがあいつの酔った時の姿だから。


「ねぇ、それなんだけど」


ノアが軽く手をあげる。なにを言う気だ? 顎の先で続けろと促す。


「私と飲んだ時、ああはならなかったわよ」

「あ、確かに。って言うかさー、ザルじゃんね?」

「はぁ!? だって、お前ら見てるだろ、何度もあいつが」

「だからそれって、三十がいる時だけなんだって。標的だっていっつも三十だし」


頭が混乱してきた。なんだ、いままでっていうかさっきのも素面ってことか。なにがしたいんだ。俺をからかいたいとか、そんなところか? つーか


「悩む必要ないじゃん。いま訊けばいい」


んで殴る。キスごときで騒ぎたてる年齢でもない。ただなんとなくむかつく。やるなら、小細工なしで正面から来い。来たら確実に拒むけど。


「あっ、訊きに行くなら帰るわ」

「俺もー、みんなも帰ろうよ」


え、なんで帰る必要があるんだよ。殴るつもりではいるけど、乱闘するつもりはないぞ。そんなことを考えているうちにみんな帰ってしまった。黄葉だけは、よくわかってない顔をしながら引きずられていったが。


「……ま、いいか」


日を改めて飲みなおせばいい。それよりいまは、全ての元凶を絞る必要がある。


「おい、六道!」


襖を開ける。うつ伏せで漫画読んでやがった。ムカツク、コイツ。


「あ、知っちゃったみたいだね。演技だって」

「ああ、よお〜くわかった。さぁ、どういうつもりか話してもらおうか?」


指を鳴らすと、六道が微笑んだ。なんだ? 俺の方が強いよって余裕か。


「いいよ。教えてあげる」

「あ?」


腕を引っ張られる。え、なんだこれ、なんで押し倒されてんの?


「ゆっくりと……ね」

「お、おい、ちょっと冗談だろ」


舌舐めずりすんな! なんだコイツ!!


「あ、安心して、俺がネコだから」


そう言う問題じゃない! 俺はソッチの趣味ないんだっつの!!
ああ、でも抵抗できない。悲しいかな、腕力は六道がはるかに上だ。
掘られる側じゃなくてよかった、そう思うことにして、覚悟を決めた。
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