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□できればあなたと等分したい
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「花礫くーん」
両手を広げ、勢いづけて、與儀は花礫に向かって走っていく。
そのまま抱きしめる――、ギリギリ手前で花礫は與儀を交わした。
彼はそのまま前に倒れそうになるが、幸いというべきか目の前に壁があったため、左手を伸ばして、なんとか体を支える。
「酷いよ! なんで避けるの!?」
「普通避けるだろ」
涙目で抗議する與儀に花礫はぴしゃりと言い放つ。
あからさまに與儀は肩を落とした。
「で、何の用だよ?」
「えっ、ああ、これね! もらったんだ!!」
じゃーんと目の前にフルーツが差し出される。
そこそこ値の張るそれに花礫が手を伸ばそうとすると、ダメだよと言って與儀がフルーツを隠した。
「見せびらかしに来たってことか?」
「違うよ! 花礫くんと食べようと思って」
「じゃあ、それ寄越せよ。まさか、人から物をもらうときは〜とか説教垂れるつもりじゃねぇだろうな?」
「ん〜、たしかにそういうのは大切だけど、俺相手になら別にいいよ。恩を売りたいわけじゃないし」
「じゃあ、なんだよ」
眉間にシワが寄る。不機嫌な花礫に対して、與儀は笑顔だ。
「これはね、こうするんだよ」
右手で持っていたフルーツに左手を添え、與儀はそれを二つに割った。
片方を花礫に差し出す。
「半分こ!」
「……うぜぇ。无にでもやれよ」
「无くんにはもうあげたよ。ツクモちゃんにも」
「へぇ。で、俺には半分だけだと」
「だって、コレ最後の一個だし、それに半分こするなら花礫くんがいいもん」
與儀の言わんとすることが分からず、花礫はますます機嫌を損ねる。
なんでわからないかな〜とぼやきながら、與儀は言葉を紡いだ。
「好きな人とは何でも分け合いたいでしょ!」
「はぁ? なに言ってんのか分かんねー」
「ええ〜っ、どうして! 花礫くんはさぁ、例えば嬉しいことがあった時とかに思わないの? ああ、この嬉しいって気持ちを、好きな人と分かち合いたい! って」
「別に、思わない」
「ひどっ! 酷いよ、花礫くん!」
手がフルーツで塞がっているせいか、與儀は顔の前で腕をクロスさせ、ちょうど交差する部分に顔を押しつけて嘆いた。
いちいちリアクションが大げさなんだよ、と花礫は吐き捨てる。
「だってさ、俺はいつだって想ってるんだよ、花礫くんのこと! 楽しいことも、嬉しいことも、悲しいこと――、は花礫くんが悲しい時だけでいいけど! 共有して生きていたいわけ。好きだから!」
「あっそ。でも、俺はそうは思ねぇし」
「そうやって、あしらう〜〜!」
また大げさに嘆くポーズをとられて、花礫は呆れ気味に息を吐いた。
面倒くさいと頭を掻く。
「おい」
「なに!分かってくれた!?」
「いいや。分かんねぇ。……でもまぁ、そういうくだらねぇ考えもあるって勉強にはなったから、コレ、もらってやるよ」
言って、花礫は與儀の左手から片方のフルーツを奪う。
一口かじった後、ぽかんとした表情のまま固まっている與儀を、アホ面と罵った。
しかし、その言葉は與儀には届いていないらしく、彼の表情はだんだんと明るさを帯びていく。
「分かってくれたんだね、花礫くんっ」
「いや、だから分かんねぇって――――」
「大好き! 愛してる!!」
「ああ、もう、うぜぇんだよ!」
まとわりつく体を押しやる。
壁にぶつかったというのに、與儀は笑顔だ。
「気持ちわりぃ」
「またまた〜、そんなこと言っちゃって、素直じゃないなぁ」
「……ある意味、そのお気楽な脳がうらやましい」
バカにするつもりで言ったのに、與儀は誉められちゃった〜と顔を緩ませている。
これ以上付きあってられないと思った花礫は、彼を置いて歩き出した。
歩きながら、二口目をかじる。
「――――まぁ、悪くはねぇかな」
呟いた言葉は、味に対してか、それとも――――