仮面夫婦
□八 祭りへ
2ページ/2ページ
最近、飲み込む言葉がある。
それはとても簡単だというのに、何故か躊躇ってしまうのだ。
たった一言、
『砂漠に似た色の髪を持つ少女が知り合いにいないか?』
……と、テンテンに尋ねるだけだというのに。
(上着を返して貰うだけだ)
上着なら沢山あるが、あれはお忍び用。
お忍び用の上着も沢山あるが、あれは気に入っているのだ。
返して貰わなければ。
自分に言い聞かせる様に考えている事に気付き、調子が狂っていると溜め息を吐いた。
昨夜の雨で、風邪でも引いたか?
(……あの女は、ちゃんと風邪を引かなかったか?)
自分よりも雨に濡れていた少女を思い出し、僅かに眉宇を寄せる。
折角上着を貸してやっても、風邪を引いていたら意味がない。
時計を見て時間に気付き、お忍び用の服を着て屋敷を出る。
裏門からこっそりと出る時、今日の祭りにまたあの少女も来るのだろうか、と思った。
なら祭りで会えるかもしれない、と。
ネジが裏門から屋敷を出て数十分後
「早くしろ、テンテン」
「はいはい」
──上着を持ったテマリとテンテンが裏門を出て、祭りへと向かったのだった。
end