仮面夫婦

□五 穴場
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 益々目を輝かせる様は、無邪気な子供の様。


(年上なのに無邪気で、かと思えば大人で)


 笑顔も、寂しそうな表情にも、惹かれる。
 テマリの持つ魅力に、惹かれずにはいれない。

 そう思い、彼女の夫となった自分と同い年の少年を思い出す。


(ネジも多分、惹かれるだろうなぁ…この人に)


 テンテンやサクラ達が惹かれた様に、テマリの引力に引きずられて。
 問題は、テマリがネジに惹かれるか如何か。


 強いし、顔はまあまあ。
 少し精神面に不安があったけれど、今は大丈夫だろう。


 だがそれでも、ネジに勝機は……


「…ご臨終よね」

「? 何か言ったか?」

「いえ、別に」


 答えながら、未だ会っていない夫婦の未来予想図を思い、掌を合わせた。


 チーン……


「それよりテンテン! あれは何だ?」

「あれ?」


 テマリが指差す方向に目を向ける。
 指で差すなという説教は、テマリの好奇心に輝く瞳を見た瞬間飲み込んだ。

 指で差された物は、立ち並ぶ屋台。
 ……まさか、屋台まで知らないとは。


(本っ当の箱入り娘なのね…)


 外に連れ出すのは少し早かっただろうか。
 先に一般常識を教えるべきだった。


「テンテン?」

「あ、ハイハイ。あれは屋台と言って、色々売ってるんです」

「なんだ、店か」

「はい」


 頷きつつ安心する。
 『店』は知っているようだ。


「テンテン! 少し見てきても良いか?」

「あ、私も行きますよ」

「ああ!」


 テマリが笑顔で手を差し出してくる。
 それに目を丸くすれば、テマリもキョトンと首を傾げた。


「? 手、繋がないのか?」

「え」

「離れたら駄目なんだろう?」


 確かにそう言ったけれど。
 いくら打ち解けたとはいえ、自分は所詮侍女。
 血統書付きの貴族であるテマリと手を繋ぐという行為は、少々躊躇われる。

 困り黙り込むテンテンに、苛立ったテマリが手を伸ばした。
 そしていとも容易く手を繋ぐ。


「あっ…」

「何だよ?」

「…いえ」

「…離れたら駄目と言ったのはお前だろっ」




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