仮面夫婦

□九 再迷子
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 昨日よりも混雑した通り。
 その原因が今からテマリ達も見ようとしている『行列』で、『行列』に近付けば近付く程、人口密度は高くなる。
 つまり、人混みで前に進めない。


「ちょっ…待て…テンテンッ」

「テマリさん、手、離しちゃ駄目ですよ!」

「うわっ! おいっ…!?」


 人の背中で前が見えない。
 頼りになるのは、腕を引くテンテンの導きだけだ。
 流石下町っ子というか、テンテンは人混みをスルスルと進んだ。
 だが反対にテマリは人混みに慣れておらず、目が回る気分だ。


(酔う…酔う……!)


 テンテンと離れたが最後、テマリは本当に屋敷へ帰れないだろう。
 昨日なんて目じゃない。
 姫様、必死だ。


「あ! テマリさんっ」

「え? う、わっ」


 人にぶつかり、スルッと手が離れる。
 「あっ」と蒼冷めるが、時既に遅し。
 人に流され、「テマリさーん!」というテンテンの声が遠退いていった。


(嘘だろう……!?)


 死刑宣告を受けた気分だ。
 テンテン、テンテーン!


(助けて我愛羅…っ)


 思わず今は遠い地にいる末の弟に助けを求めてしまった。
 すぐ下の弟はヘタレているので、助けは期待出来ない。

 混乱していても助けを求める相手はきちんと選ぶテマリだった。


(うっ…気持ち悪い……)


 そうこうしている内に、本格的に酔ってしまった。
 嗚呼、今ならきっと空も飛べる……そう思うくらい、追い詰められた。


 その時


(あ……?)


 手首を掴まれ、引かれる。
 人混みで相手は見えないが、多分テンテンではない。
 しかも如何やら、相手はテマリを人混みから助けようとしているらしい。
 段々呼吸が出来るようになってきた。


(……神様……!)


 ありがとう!


 見たこともない神ではなく、弟やその親友に憑いてる尾獣にでもなく、今テマリを救おうとしている相手に感謝した。
 喩え相手が貴族狙いの不良だろうと爽やかな好青年だろうと、『神様』と呼ばせて頂こう。

 そう誓ったが。


「大丈夫ですか?」

「うわっ……」


 思わず呻いてしまった。
 感謝も忘れて、目を反らす。


(神様、濃ゆい……!)


 おかっぱ、太い眉毛、下睫……流石に神様とは呼べなかった。


「…え? 『うわっ』って何ですか……?」

「いや……此方の話だ」




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