仮面夫婦
□七 意地
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「迷った」と告げた途端、明からさまに呆れた表情をされた。
テンテンやサクラにならされても平気だが、見ず知らずの赤の他人に、そんな対応をされたのは初めてだ。
思わず眉宇を顰める。
「……夜道で初めて来た場所なんだ、仕方ないだろ」
「初めての場所に、一人で、しかも夜に来る方がおかしい」
下見くらいするだろう、と呆れを通り越して馬鹿にする相手。
判断する。
こいつは嫌いだ。
(男だから優しくする必要もないしな)
天性の女たらしなテマリは、素早くそう判断した。
「煩い。花火なんて初めてだから、一番良い場所で見たかったんだよ」
「……お前、花火を見た事がないのか」
目を丸くする相手に、「そうだ」と頷く。
すると相手はテマリをジロジロと見て、納得する。
「……成程な。お前、木ノ葉の住人じゃないだろう」
「……何で…」
「その髪の色。木ノ葉にそんな薄い色素は滅多にいない。いるとしても……」
ナルトの様に、特別な者達だけだ。
続きを黙る少年に、苛々する。
いるとしても……何だ?
「……とにかく、その髪色は木ノ葉では目立つ。有名になる筈だが、俺はお前を知らない。──つまり、他国からの移住者もしくは……旅人だけだ」
その新たな情報に目を瞠る。
どうやら木ノ葉と砂では、一般的な髪色が違うらしい。
──否。
テマリの髪色が、一般から外れているのか。
「大体、木ノ葉にいて花火を見た事のない奴なんていない。木ノ葉の何処にいても、祭りで上がる花火は目に入るからな」
「ふぅん……」
頷きつつ、やはり花火を見てみたいと思う。
理由が如何であれ、テマリは恐らく一生、木ノ葉で暮らす事になるのだろう。
ならばせめて、楽しみたい。
「だがこの雨では……花火は中止だろうがな」
「……そうだな」
俯く。
普段なら、砂では珍しい雨に喜んでいただろうが、花火が中止になるのならば話は別だ。
ただ、寒くて冷たいだけだ。
髪を絞り、水を出す。
寒さに身震いしたが、衣服が濡れているので仕方がない。
(風邪ひくかもな……)
テンテンに怒られる、と溜め息を吐いた時──温もりを感じた。
驚いて振り向けば、少年が自身の上着をテマリに被せている。
「……おい?」
「寒いだろう。貸してやる」
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