仮面夫婦

□六 出会い
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 のどかだな、此処は。


 左を見て、右を見て、前を向けば笑顔がある。
 皆楽しそうに笑い、家族や仲間と共に笑い声をあげていた。

 幸せが溢れている。


「……なあ、テンテン」

「はい?」


 振り返ったテンテンを見ず、擦れ違う人々を見つめた。
 肩車された子供に頬が緩み、不思議そうな表情をするテンテンに笑顔を向けた。


「楽しいな」


 その無邪気な笑みにテンテンもきょとんとした後、頷いて笑った。


「当たり前ですよ!」


 和やかな雰囲気。
 だが其所へ、無粋な怒鳴りが響く。


「テメー如何してくれんだ! ああ!?」


 騒がしい方を見れば、数人の男達が姉妹らしい少女二人に絡んでいる。
 男達の内の一人には、たこ焼きのソースが付いていた。

 それにテンテンが「あちゃー」と呟く。


「まーたやってるわあの馬鹿達」

「知ってるのか?」

「何処にでもいる雑魚の脇悪役ですよ。あーやって誰彼絡んで……ほんっと邪魔ねー」


 溜め息を吐くテンテンから視線を戻し、絡まれている少女達を見る。
 困り、怯える年下の少女達は、恐らく髪色や肌の色からして砂の民。
 故郷を同じとする少女達に絡む男共を睨み、一歩踏み出した。

 騒ぎに近付くテマリに慌てるのはテンテンだ。


「あ……テマリさん!?」


 名を呼ばれたが、もう遅い。
 男の一人がテマリに気付いた。


「ぁあ!? んだテメー!」

「其奴ら反省してるみたいだし、許してやれよ」

「テメーには関係無ェだろ! それともテメーが弁償すんか、ああ!?」


 男の一人がテマリを掴もうと手を伸ばし──そうして「ぎゃっ」と悲鳴を上げた。
 テマリの手には、何処にでもある様な扇子。


「何扇子でちょっと叩かれたくらいで痛がってんだ」

「違げェ! この扇子……普通んじゃねェぞ!」


 男が扇子を指差す。
 だが絵柄が美しく凝っている事以外は、大きさも形も普通の扇子だ。

 ただ


「鉄で出来てる、特注の鉄扇だからな」


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