仮面夫婦
□五 穴場
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長い髪を一つに結い、厚い重ね着を脱いで動き易い七分丈の着物を着る。
普段よりも楽な服装に嬉しさが募る。
初めて、やっと、外の世界が見れるのだ。
其の昂奮に胸が躍る。
「テマリさん、そんなにそわそわしないで下さい! 着崩れちゃいますよ!」
「良い、そんなの。其れより、早く祭りに行こう!」
「先に門行ってる」と向かうテマリ。
はしゃいでいる彼女を見て、苦笑しながらもほのぼのとした気持ちになる。
やはり、誘ってみて良かった。
姫故に、大切に大切に育てられたテマリは、外界と隔離されて生きて来たらしい。
平穏な変わらぬ日々──だが其れは、とても退屈そうで。
テマリが嫁いで来た当初、度々「つまらない」と呟いているのを知っていた。
幼馴染みのネジが取られた様な感じだったテンテンは、それに敵意を持って「お姫様は暇そうね」と密かに言った物だった。
今思えば、なんて馬鹿な嫉妬だったのだろう。
ネジはテンテンの物でも何でもない、ただの幼馴染みだったのに。
だから、テマリが喜んでくれている事が嬉しい。
門へ近付けば、気付いたテマリが手を振ってくる。
今までにないくらい上機嫌だ。
「テンテン、早く行くぞ!」
「はいはい、分かったから走らない」
今にも走り出しそうなテマリの腕を掴み、注意事項を話す。
知らない人に付いて行かない、テンテンから離れない。
子供に聞かせる様な言葉を真面目に聞いているテマリを見て、一抹の不安を感じる。…冗談なのに。
「と、取り敢えず、屋台から見ましょう? 花火は夜だし、行列は明日と明後日だし」
「行列?」
テマリが首を傾げるのを見て、補足する。
「行列っていうのは、化装した人達が踊ったりしながら進むんです。太鼓を叩いたり、笛を吹いたり。楽しいわよ〜」
「そんなのもあるのか!?」
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