仮面夫婦

□四 お忍び
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「テマリさん!」

「止まって下さい!」


 自分の名を呼ぶ声がする。
 走りながら後ろを見ると、必死という表情でサクラといのが走って来る。

 それは勿論


「誰が止まるかっ!」


 テマリが逃げているからである。
 その姿は白衣に羽織を着ているだけで、『砂の秘姫』と呼ばれる程の深窓の姫君とは思えない。

 そして反対に、サクラ達の手には数着の衣。


「テマリさん! そんな薄着で、風邪ひいたら如何するんですか!」

「今は夏だ! それとも、私が馬鹿だと言いたいのか!?」

「それより何より、姫君がそんな薄着で!」

「いのだってこの前、暑いとか言って裾を太股位迄上げてただろ! アレは良いのか!?」

「「それとこれとは話が別です!」」


 見事に声を重ね、いのとサクラが一斉に跳び掛る。


「うわっ!?」


 バシャッ


 そして倒れた三人は、丁度あった池に落ちた。


「何やってんのよ、あんた達」


 気付いたテンテンが手拭いを持って駆けて来る。


「冷て…」

「あ、す、すみません! 大丈夫ですか!?」

「大丈夫じゃない…」

「自業自得ですよ! うあぁ、冷た〜い」

「ほら、早く拭きなさい! テマリさんはお風呂ですからね!」

「おー…」


 水を吸って重い髪を絞り、風呂場へと向かう。
 どうやらこうなる事を予測していた様で、既に温かい湯が溜っていた。
 手早く身に纏う物を脱ぎ捨てれば、腕を捲ったテンテンが準備して待っていた。


「テマリさん、髪を前に」

「ん」


 長い髪を前に流す。
 それは水を吸って重く、テマリを縛るかの様に絡まり、邪魔だ。

 『砂の秘姫なのだから』と幼い頃から伸ばされた髪は床を這う程で、結婚を機に切ったのだが「勿体ない」と言われ、結局腰辺りまである。


「…邪魔だな、髪」

「何言ってるんですか。綺麗な髪ですよ」

「………」


 全身が泡で包まれ、今度は髪を後ろに流す。


「滑らかで気持ちいい、素敵な髪じゃないですか」

「…邪魔なだけだ」


 吐き捨てる様に呟く。
 それでも髪を弄られるのは心地良い。

 と、バシャッと湯を掛けられる。


「うわっ」

「はい、目を瞑ってー」

「言うの遅」


 その文句も、途中で途切られた。










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