仮面夫婦

□三 友達百人
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 風の国を出て、半月。
 夫婦の為にと用意された屋敷に自分と夫、日向から付けられた数人の侍女達と暮らし始めて一週間。

 テマリは一度も夫に会っていない。

 それ所か、夫の顔も名前も知らない。

 だがマイペースなテマリは、親しき者もないがこの暮らしに落ち着きつつあった。


「なぁ」

「は、はい」

「あれは何ていうんだ?」


 部屋を掃除していた侍女に、窓の外──立派な庭に咲く花を指差す。


「あれは…椿です」

「そうか」


 付けられた侍女の内の一人──薄桃色の髪の、年下の少女が答えた。
 それに頷き、当然のように命令する。


「椿、飾っておいてくれ」

「あ、はい」


 少女がパタパタと部屋を出て、鋏を持ち戻って来る。
 窓から少女が椿を切る所を眺めた。


 パチン


 パチン


「痛…っ!」


 椿が少女の手の中に落ちていく様を見つめる。
 と、少女の手から血が流れていた。


「大丈夫か?」

「は、い。大丈夫です…」


 だが眉を顰め、手を押さえる様子は、大丈夫そうではない。


「此方、来い」

「ぇ?ぁ、はい」


 近寄る少女の手を取り、傷を診る。
 掌がパックリと切れていた。


「あの……?」

「テマリ様? 如何されました? ……サクラ?」


 騒ぎに気付いたもう一人の侍女が声をかけてくる。
 それに手早く指示を出した。


「怪我した。手当てをしたい……包帯と消毒液、それと布を」

「ぁ…はい!」


 侍女が主屋へ駆けて行くのを見、少女に向き合う。
 そして再び尋ねた。


「大丈夫か?」

「は、はい」

「嘘吐け」

「…申し訳ありません」

「何で謝るんだ」

「お手を煩わせてしまって……」

「そんな事ない」


 言うと、少女が驚いた表情をした後、まじまじと見てくる。
 それに少し眉宇を寄せた。


「……何だ?」

「いえ……その…、驚きました」

「何が?」

「…あ──」


 少女が口を開け何か言おうとしたのを、大きな声が遮った。


「サクラ大丈夫!?」




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