仮面夫婦

□二 見合い結婚
1ページ/3ページ





 布団と毛布に丸まり、外の様子を窺う。
 時刻は既に夜で、見合いの時間はとっくに過ぎていた。


「……」


 もぞもぞと動き、枕元にある封筒を取る。
 暗い中それを見つめ、壁へ思いきり投げつけた。


「テマリ」


 突然響いた声にビクッと肩を揺らす。
 恐る恐る振り向くと、薄い御簾の向こうに人が立っていた。
 相手が誰か気付き、安心する。


「我愛羅か…」

「ああ」


 掛けてあった羽織を取り、御簾の直ぐ近くへ行く。
 相手も大分近く迄寄って来た。

 沈黙が落ちる。


「…面倒臭いな、これ。姉弟なんだし、要らないだろ……?」

「駄目だ。姉弟でも何でも……お前は、砂の秘姫だ」

「…そうだな」


 小さく溜め息を吐く。
 それに弟が顔を顰めると分かっていても、出る物は仕方がない。


「体調は如何だ?」

「…元気だよ」


 我愛羅の問いに苦笑いで答える。
 今度は我愛羅が溜め息を吐いた。


「今日は大事な見合いだと、何ヶ月も前から話していただろう」

「うん。でも、意味ないだろ?」


 見合いをしようとしまいと、テマリは嫁ぐのだ。
 見も知らぬ男の元へ。

 テマリの自嘲する様な言葉に、我愛羅が目を伏せる。


「…すまない」

「ぁ…そんなつもりじゃないよ! …ごめん」

「………」

「仕方ないし、分かってるよ。"一族の為に"」


 そう微笑んだ姉に、一族の長──現・風影である我愛羅は、もう一度「すまない」と呟いた。


 "友好関係を築く為"に、テマリは火の国でも有数の日向一族に嫁ぐ。
 明らかなる政略結婚。

 相手は直系に一番近い、才能ある若者を出してきた。
 それに釣り合うようにと、直系の姫であるテマリに白羽の矢が立ったのだ。
 何より、直系に近い姫が他に居なかった。


 その事を承知しているテマリの僅かな抵抗が『見合いの欠席』。
 つまり、テマリが"拒絶"している事を示している。
 日向も、夫となる男も気付いているだろう。


 政略結婚に心は伴わない。




.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ