仮面夫婦
□一 始まり
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「お前の婚約が決まった」
御簾を挟んで向かい合う弟が、そう言った。
目を瞠る間にも話は進む。
「三ヶ月後に見合いをする。相手は火の国の日向一族だ。──結婚がほぼ内定している」
「我愛──」
「決定事項だ」
淡々と、しかしはっきりと言われてしまえば自分に拒否権はない。
顔を伏せれば、御簾の下から巻物を渡された。
「相手の似姿だ」
それだけ言うと静かに立ち上がり、我愛羅は去る。
残されたテマリは、深く、息を吐いた。
ついに来たか、縁談。
あの我愛羅が呑んだならば、一族にとって重要かつ有益であるという事。
恐らく相手の男も悪くはない。
頭は理解しても、グッとくる物がある。
そしてそれは、我愛羅にぶつけてはならない。
──彼は、本当は自分を手放したくはないだろうから。
自惚れでもそう思う。
巻物を手に取り、開こうとした手を止めた。
似姿を見てなんだ。
実物が如何だろうと、絵ならばどんな風にも描ける。
大体、この縁談は既に決定しているのだ。
巻物を強く握り締め、壁に思い切り投げつけた。
嗚呼、むしゃくしゃする。
(カンクロウ、早く来いっ)
こんな時は、もう一人の弟に八つ当たりすれば幾分マシになるのに。
「く…っそ……!」
抑えきれぬ激情を宥るように、震える自身を抱き締めた。
視界がぼやける。
この気持ちは、悔しさに似ていた。
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